こうして、一つの会社、一つの地域に、重要な製品の供給を依存し過ぎることは大きなリスクがあることが明らかになってきました。今後は1社に依存せず、できるだけ複数の会社、地域から購入するという、供給源を分散する動きが進むでしょう。

 実際に、企業間の統合が進み、2強の寡占状態が進みつつあるHDDD業界では、統合により売上が1+1が2にならない事例が生じています。Western Digitalは日立グローバルストレージテクノロジーズと統合を目指しており、統合後のシェアは50%になります。また、SeagateがSamsungのHDD部門を吸収し、世界シェアは40%になりました。

 2社の価格交渉力が強くなり過ぎることを嫌うパソコン・メーカーなどの顧客が、世界第3位とはいえ市場シェアが10%にすぎない東芝からのHDDの購入を増やしているそうです。東芝にとっては、2強の登場により、「漁夫の利」で市場シェアが高まっている。同様のことが、LSIの分野でも、数社に寡占化が進んだ製品分野では起こっていると言われています。

 一方、1社からの購買を厭わない会社もあります。iPod、iPhone、iPadなどを手掛けるAppleは、製品の頭脳となるマイクロプロセサを1社に生産委託する方針を取ってきました。同じくAppleにとって重要な部品であるフラッシュ・メモリの購買に関しては、東芝、Samsung、IntelとMicronの合弁会社であるIM Flash Technologies、Hynixと多くの会社を競わせているのとは対照的でした。

 Appleにとって、プロセサの供給を1社に握られるというのはリスクでもありますが、Appleの力でプロセサ・ベンダーをねじ伏せることができると判断したのでしょう。Appleの携帯機器のプロセサは、最近はSamsungが供給してきました。Samsungにとっては、Appleはプロセサよりも高価なフラッシュ・メモリを購入してくれる大事な顧客。SamsungはAppleにはプロセサに関して強く言えない、という計算がAppleにあったと思います。

 もっとも、Android携帯の販売でSamsungが力をつけ、スマートフォンの分野でAppleとSamsungは競合関係になってきました。これに伴い、両社は世界各地で訴訟合戦を繰り広げています。Appleに部品を納入するSamsungの立場も当然変わることになり、プロセサやフラッシュ・メモリに関する業界地図も影響を受けるでしょう。AppleはSamsungに依存し過ぎることを嫌うでしょうから、Samsung以外の半導体メーカーにとってはチャンスです。既に名前が取り沙汰されているメーカーもあります。

 企業間の連携や統合・合併は諸刃の剣。半導体の先端プロセスの研究開発費や広告宣伝費など、固定費の削減は統合の大きなメリットです。一方、売上高は必ずしも1+1が2になりません。連携や統合の良し悪しは、戦略次第。顧客の戦略にもよりますし、特に、1社購買を避ける業界では、要注意です。

 企業間の連携や統合の戦略は、技術の戦略と表裏一体の関係です。顧客との関係や技術戦略はエンジニアの皆さんが、日々密接に顧客とやり取りしている中でわかってくることです。自分の会社の技術の強みは何か。業界の中でこれから生き残る技術は何か。顧客はどっちを向いているのか。自社にない技術を持ち、組むとより強みを活かせる他社はどこなのか。

 エンジニアの皆さんは、顧客の話や他部署の話を聞きながら、会社のトップになったつもりで、会社の将来戦略を考えてみてはいかがでしょうか。経営者の方は、エンジニアしか知らない顧客情報や競合他社に関する貴重な知見に耳を傾けてみて下さい。

 エンジニアの皆さん、自分の仕事とは関係ないと思わずに、経営企画部門と積極的にコンタクトを取り、会社の戦略づくりに参加してはいかがでしょうか。技術情報・知見をもつエンジニアの経営企画への参加が必要になっています。逆にエンジニアの目、技術戦略を持たない安易な企業合併・連携では1+1は1になってしまうかもしれません。