「たくさんの会社が集まれば良いとは限らない」
「合併で売上高が大きくなれば良いとも限らない」

 エレクトロニクス業界では企業間の連携や統合が盛んです。ただ、企業の統合のためには、まず、勝つための戦略が必要です。

 東芝・日立製作所・ソニーが中小型液晶パネル事業を統合し、2012年に「ジャパンディスプレイ」を設立。元三菱電機・日立製作所・NECのシステムLSIやマイコンの部門が集まったルネサス エレクトロニクス。携帯電話機メーカーも統合が進み、富士通と東芝が富士通東芝モバイルコミュニケーションズに、NECとカシオ、日立製作所はNECカシオモバイルコミュニケーションズに統合されました。エレクトロニクス業界以外でも、新日本製鉄と住友金属工業が2012年度中の統合を目指しています。

 企業間の統合による典型的な利点は、固定費の削減です。半導体産業では、最先端の微細加工技術を開発するには、巨額な投資が必要です。最先端の液浸露光装置だけで数十億円しますし、クリーンルームの建設にはさらに1~2ケタ巨額な資金が必要となります。例えば三つの会社が統合すれば、研究開発に関する支出を1社分だけにすることができますので、売上高に対する固定費の割合を3分の1に圧縮することができます。

 固定費の削減に関しては、研究開発費以外でも、人事や総務、財務、経理などの間接部門の人件費や広告宣伝の費用を一本化することによるコストの削減も期待できます。また、統合により、製造ラインの規模を拡大し、低コストで原材料の調達が可能になったり、いわゆる「規模の経済」で生産性が向上する利点もあるでしょう。

 複数の会社が統合することで、売上高や市場シェア、利益率が高くなる、1+1が3になる可能性もあります。現実のビジネスでは、「数は力」です。顧客との価格の交渉でも、市場シェアが大きい会社ほど、有利に価格交渉を進めることができます。また、製品の仕様や標準化といった技術の交渉でも、市場シェアが大きいほど、「大きな声」をあげることができ、自社に有利になります。

 しかし、企業間の統合を行っても、必ずしも売上高が足し算で増えず、1+1が1に減ってしまう場合もあります。半導体や液晶パネルなどの部品ビジネスでは、顧客であるセット・メーカーやパソコン・メーカーは、1社だけから購買することを嫌うからです。

 特定の部品メーカーから大量に部品を購入すると、顧客にとっての価格交渉力は弱まります。1社だけの購買では、その会社が部品を供給してくれなければ、顧客自身が困ってしまうため、納入する会社に強く言えなくなるのです。一方、複数の会社から購買する場合には、納入する会社を競わせることで、より安価で部品を購入できます。

 また、東日本大震災では、ルネサス エレクトロニクスの那珂工場が被災し、自動車の基幹部品である車載向けマイコンの供給が滞り、世界中の自動車メーカーのサプライチェーンに大きな影響を与えました。世界のHDD生産の6割を占めるタイでは、洪水によりHDDの生産が滞り、パソコンをはじめとする様々な電子機器への影響が懸念されています。