スマートフォンやタブレット端末が牽引役となり、高精細化や高視野角化を図った中小型液晶パネルの需要が急増しています。国内の携帯電話事業者が発表した2011年冬~2012年春商戦向けのスマートフォンを見ると、4.3~4.5型で1280×720画素の液晶パネルが高級機種の標準となりそうな状況です。精細度を計算すると330ppi前後となり、もはや肉眼では画素の確認が困難なレベルに達しているといえます。

 さらに、2011年10月26~28日に開催された「FPD International 2011」では、東芝モバイルディスプレイが498ppiの精細度を備えた6.1型の液晶パネルを披露しました(Tech-On!の関連記事)。こうした状況を考えると、スマートフォンやタブレット端末向けパネルの高精細化競争は、今後1~2年は続きそうです。

 こうしたスマートフォン向け液晶パネルの多くは、駆動素子には低温多結晶Si(LTPS)TFTが、表示方式にはIPSモードが採用されています。LTPS TFTはキャリア移動度が100cm2/Vs以上と高く、画素を高精細化しても開口率を確保しやすいからです。一方、IPSモードは、液晶分子がガラス基板と水平方向に回転するため、指などでガラス基板に圧力をかけても液晶分子の配向に与える影響が少なく、タッチ入力との相性が良いという利点があります。

 盛り上がる中小型液晶パネル市場の現状に対して、長くディスプレイ業界に関わってきた元技術者は、「10年以上前に離陸した二つの技術が、ようやく花開いた」と感慨深げに話します。LTPS TFTは東芝が1997年に、IPSモードは日立製作所が1996年に実用化した技術。2000年以降、テレビ向け大型液晶パネル市場が拡大したことで、量産性に優れたアモルファスSi TFTやVAモードに押され気味だっただけに、元技術者の感慨もひとしおといえそうです。

 ただし、これら二つの液晶技術がブレイクしたのは、2010年発売の米Apple社の「iPhone 4」が大ヒットしたことがきっかけです。iPhone 4に、3.5型で640×960画素のIPS液晶パネルが搭載されたことで、競合他社が追随するようになりました。「本当は、日本メーカー製品の付加価値向上に役立てば良かったけど…」と前述の技術者は漏らします。

 Apple社がきっかけとはいえ、“スマホ特需”の恩恵を受けているのが、シャープや東芝モバイルディスプレイ、ソニーモバイルディスプレイ、日立ディスプレイズなどの国内液晶パネル・メーカーです。各社は、LTPS TFTの技術開発と製造ラインへの投資を進めてきた結果、技術的に優位な立場にあります。

 それでは、国内メーカーの技術優位性はいつまで続くのか。国内メーカー同様、韓国や台湾の液晶パネル・メーカー各社も中小型へのシフトを進めています。先に述べた通り、LTPS TFTやIPSモードの技術は10年以上前に開発された技術。国内メーカーに製造ノウハウの蓄積はあるものの、技術者の引き抜きが激しいとされる韓国・台湾メーカーに早晩、追い付かれる可能性は否定できません。

 「10年以上前の技術に頼らず、そろそろ新しい技術を進めるべきだ」。前述の元技術者は、期待を込めてこう語ります。次の一手を打つのは、国内メーカーか海外メーカーか、各社の動きに注目です。