もちろん、単にいろいろな視座があることに気付くだけでは、視座力が高くなったとは言えません。それぞれの視座に立って、多面的に考えてみることが必要です。この視座に立って考えることを押し進めるためには、「視座交換」するのが望ましいのでお勧めしています。

 この「視座交換」する力は、「価値観力」とも連動しています。ある視座を考えた時、その視座の人が持つ固有の価値観を理解ことが重要です。つまり、想定している視座の人が、どのような役割を担った立場に立っているのか、何を重要と考えているのか、何にこだわっているのか、何を望ましいと考えているのか、などをできるだけ想像するのです。

  そうすることで、その視座を持った人がどんな情報にこだわり、情報をどう判断し、どう意思決定し、どう行動するかが想定できるようになります。この「視座交換」ができるようになるためには、多くの人々と接して、その人々の視座や価値観、行動パターンなどを把握する訓練(セルフトレーニング)が必要となります。

  問題解決の場で意思決定する時に、その問題に関わる視座を意識できたとして、どの視座を優先し、どの視点を設定するかを考える必要があります。たとえば、学生が就職先を決めなければならない問題で、自分自身の他に両親や家族、ゼミの先生、就職担当の先生、就職センターの職員、就職先を紹介してくれた人、就職先の人事担当の人、友人、先輩・後輩、親戚など、実に多くの視座が関係しているはずです。

 これらのすべての視座を配慮すると、決断に迷いが生じます。そのような時は、絶対に外せない視座を絞るべきです。何をもって絶対に外せないとするかの基準は状況によって異なりますが、絶対に外せないのか外せるのかを決断することから始めてみましょう。これをいろいろな問題に遭遇するたびに繰り返してみることで、視座に適切な優先度を付けて判断できるようになります。

(5)おわりに

 視座に関する知識を増やすために、視座についてのブレーン・ストーミングを行なうという訓練もあります。人間、短い人生でそんなに多くのことを自分で体験することは困難です。そこでブレーン・ストーミングで多くの視座を集め、視座を知り、それぞれの視座に思いを馳せるのが有効な方法です。

  次は人の意見をよく聞くことです。自分の意見にとらわれる人は、考えている視座が少ないし、また狭い範囲に固執するのです。その結果、良い知恵や正しい判断、適切な考え方が出てこないのです。個人的な問題は別として、組織での問題解決の場合、必ず上司や同僚、部下などの意見に耳を傾けましょう。

 さらに、多くの人の意見や考えに触れることがよいと思います。一つの方法として、本を多く読むことをお薦めします。セミナーやシンポジウムにも参加してみましょう。先人や賢人の意見の中には、こんな視座もあるのか、ここまで視座に配慮するのか、など気づくことがよくあります。

 冒頭で、高い視座力を持っている人をイメージしてもらうために、スペシャリストに対比させてゼネラリストを持ち出しました。読者の中には、スペシャリストにも当然、高い視座力を求められていると反論する方もおられるでしょう。私はスペシャリストにはゼネラリストよりも、より専門的で、かつ特化した視座力と視点力が求められていると思っています。誤解しないようにお願いしますが、ここで筆者が強調したかったのは、ゼネラリストの方がより「高い視座力=より広い視座力」が求められるということです。

 ゼネラリスト、スペシャリストの能力分析や明確な定義はともかくとして、若い人たちは今、実力主義社会(メリットクラシー)の中で活躍することが求められています。ここでは、どのように自分の思考力や問題解決力を高めるのかが問われていて、そのためにはまず視座力を高めることが必須であると私たちは信じています。