(1)はじめに

 執筆者として、私が「視座力を高めるために」を担当することになりましたが、一番困ったのは高い視座力を持った人の具体的なイメージが描けなかったことです。視座力の低い人は分かります。それは自己中心的な人です。そこで、このコラムの執筆の発起人でもある石桁氏に、高い視座力を持った人のイメージについて相談してみました。その答えはすぐに返ってきました。ゼネラリストではないかと。

(2)ゼネラリストとは

 ゼネラリストとは、スペシャリストと対になる言葉です。スペシャリストはある特定の分野に非常に高いスキルや深い造詣を持った人ですが、ゼネラリストは広い分野に造詣が深いだけではなく、物事を一般化して見ることができる人です。また、ゼネラリストはいろいろな分野で経験を積みながら、自分の思考方法や構造把握力をハイレベルにアップできる人です。

 世の中には、ゼネラリストというと「何でも屋」の管理者のように思っている人もいますが、視座力の高いゼネラリストは複数の専門分野を持ち、認知力にも、人間力にも秀でた人です。

 例えば、会計分野なり、営業分野なり、技術分野なり、自分の出身分野で仕事を極め、しかも他のいくつかの分野も経験し、そこでも評価の高い実績を残してきた企業の幹部は、「視座力の高いゼネラリスト」と言えるでしょう。その人たちは、幹部として育成するために会社からいろいろな部署を体験する機会が与えられてきた場合もあれば、自分の専門分野で活動する中で、自己能力を俯瞰的に見て、構造化することができるようになった人もいます。

(3)高い視座力とは

 ここでは、ゼネラリストにつながるような複数の専門分野を持ちながら、多くの分析から一般性(ゼネラリティ)を見抜くことができ、この一般性を用いて物事の本質を見通し、加えて間口が広く、人間力のある人を「視座力が高い人」と考えています。

 「視座力が高い人」は、問題解決に取り組むときに、まず自分はどんな立場でその問題に取り組もうとしているのか、自分が関係するいくつの視座に立つべきであるのかを把握(自己認識)します。その上で、いろいろな分野での経験を生かし、その問題にどんな人たちが関わっているのかをゼネラリティをベースに考えます。こうした考え方を私たちは「視座意識」と呼んでいます。「視座意識」には、自己認識としての「視座意識」と、自分以外の視座を考える「より広い視座意識」があります。

 意識した視座に立って、その問題にどのような関わりを持ち、どのように考えるべきかを想定します。この時、自分の視座と相手の視座を交換するという考え方をするので、私たちはこの考え方を「視座交換」と呼んでいます。

 さらに、問題解決のための意思決定では、視座意識を行なって把握できた複数の視座に優先度を付けて、どの視座を優先して対処するのが適切であるかを判断します。これは、視座に一種の優先順位を付けることになります。私たちはこの考え方を「視座による判断」と呼んでいます。