年齢や役職を気にせずに、社会の課題について対話

5月に開催したダイアローグの様子

 我が「かなりあ社中」も、2011年5月17日の午後にダイアローグを開催しました。テーマは「震災後の日本企業のありかたを『ものづくり』の視点で考える」。東京都内にあるNECの本社ビルの最上階に、インターネットでの呼び掛けで、事務局メンバー含め48人が集いました。参加者は、メーカーの技術者から大企業の役員、大学の教員、女子大生まで職種も年齢も多様です。参加者は5人ずつ7つのグループに分かれ、対話を繰り広げました。

 今回は、某情報機器メーカーでタブレット端末を開発する架空の技術者Xさんの体験を基にダイアローグの様子を振り返ってみましょう。

 最薄・最軽量を求められる日々の開発で煮詰まっていたXさんは、「ちょっと外の空気に触れてこいよ」という友人の紹介で偶然、この会に参加しました。知っている顔もいないし、ドキドキしながら席に着いたようです。参加者同士の自己紹介で会場の雰囲気が和らいできた頃、「被災地の様子を見て、企業人としてこれから何ができるか、色々な方と本気で考えてみたいと思いました」と、イベントの幹事役からテーマの背景を説明されました。

 その後、イベントのゲストの一人が対話のキッカケとなる参考意見をプレゼンします。「これまでは、インプットが無限にあることを前提に、アウトプットを最大化するのがものづくりの目的だった」。松下幸之助の水道哲学です。「今回の震災で、この前提と目的は崩れたのではないか」。この問い掛けを基に「あなたが考えるものづくりの課題は何か」「その課題は震災前後で変化したか」というテーマで各グループの対話が始まりました。

さまざまな立場の人々が同じテーブルで対話する

 Xさんと同じテーブルには、女子大生や大企業の役員などが座っていました。不思議なことに、職業や年齢を気にすることなく、忌憚のない意見を話し、互いの意見を聞き合う雰囲気があります。普段はなかなか触れ合うことない人々の意見は、Xさんには新鮮だったようです。上下関係を気にし、結論を急ぎがちな会社での打合せとは異なる体験だったからでしょう。

 会の進行が深まるにつれ、対話の内容はものづくりの本質という哲学的な内容になっていきます。「生産者と消費者という区別自体が、ものづくりをつまらなくしているのではないか」。「これからの製造業は、欲しいものを“提供する”から“一緒に作る”という視点を持たなければならない」。そうした意見を聞きながら、とにかく「最薄・最軽量」という目標の実現に邁進してきたXさんは、普段考えない視点にハッとさせられます。

 対話で話し合われたキーワードをグループ間で共有する作業で、あるグループから紹介された「ものづくり四原則」という考えも、Xさんの心に残りました。

「ものづくり四原則」
 ・ものづくりは、“共有された幸福観”の実現である(今の時代の水道哲学)
 ・ものづくりは、その“楽しいプロセス”に本質がある(売上ではない)
 ・ユーザと一体となったものづくりには、“ありがとう”の手ごたえがある
 ・ものづくりと“もの届け(デリバー)”が一体となった事業モデルが必要

 二時間半の対話イベントはXさんにとって、あっという間の出来事でした。