(3)組織活動で最優先すべき価値観の選択

 筆者が特に注目したいのが第4として挙げた価値観力で、換言すれば「自分の価値観と社会組織の価値観との調和を図れる能力」であると言えます。私たち人間は社会生活を営み、社会の多くの組織に所属しています。どの組織にも、その組織としての「価値観」が存在します。

 例えば、現在、多くの組織で重要だと考え、「優先度の高い価値観」としてコンプライアンス(法令遵守)があります。この価値観は、各個人が持っている価値観と矛盾するものではありません。誰でも「法令は守らなければならない」と考えています。それなのに、なぜいまさら「コンプライアンス」の問題をこんなに大きく取り上げなければならないのでしょうか。

 それは、組織の中に法令遵守精神の他に個別的な価値観がたくさんあり、組織の目標を達成するために「法令遵守」という価値観を無視したり、軽く見たり、他の価値観を優先させたりして、社会でいろいろな問題が起きているからです。コンプライアンスに反するような行動をした社会組織は、社会から見放され、またそういう事実が公にでもなれば退場させられる恐れがあります。そういう意味で「コンプライアンス」を保持する能力は、社会組織にとって「最優先の価値観力」であると言えます。

(4)まとめ

 この世の中に数多く存在する価値観の中から、場合によっては相矛盾する価値観の中から、優先させる価値観を適切に選択したり、新しい価値観を作り出したり、いくつかの価値観を統合したりする能力を向上させるのには、今後、私たちはどうしたらよいのでしょうか。

 場合に応じて適切な価値観を選択できるかどうかは、正義感や勇気、バランス感覚など、その人の「人間性の高さ」に依存しています。こうした人間性を支えているのは、その人の「品格」です。社会として望ましい価値観、その人が円満に日常生活を送っていける価値観、良い仕事の成果に結びつく価値観、新しいことへ意欲的に挑戦していく価値観などは、その人の人間形成の結果としての「品格」から生み出されるものです。

 もちろん個性は尊重されるべきです。漫然として時を過ごすのではなく、自分の人格形成に役立つよう、毎日毎日を心して過ごすよう、また普段からの心掛けをお勧めいたします。日頃からこうした価値観力を育成しておくことを通じて、大げさに言えば、人生の岐路に立った時に、人は価値判断を正しく行なえ、望ましい行動を取れるのではないでしょうか。