前編では、スティーブ・ジョブズの功績を考えるうえで、三洋電機とのやり取りなどの例をあげ、そして共有されたアイデアやコンセプトを可能な限り高めて商品化するところに彼の優秀さがあるのではと述べました。今回は、タイトルにあるように,このジョブズから日本が学ぶべきことを,考えてみましょう。

革新的ビジネスモデルを発明していない日本

 ここで、日本の工業製品の発展を振り返ってみましょう。日本は高度成長期に電機産業や自動車産業が大きく飛躍し、経済を引っ張ってきました。しかし、自動車、テレビ、ビデオ、液晶、パーソナルコンピュータといった製品の基本原理を日本が発明したわけではありません。またそれらをマスプロダクトして、市場に供給するメーカーとしてのビジネスモデルも日本が独自に編み出したものではなかったのです。日本が行ってきたことは、主にアメリカなどで成功した工業生産のビジネスモデルを模倣し、改良し、改善し、究極までブラッシュアップしてきたことだと思うのです。

 やがて、日本がアメリカなどから学び自らのものとしてきたそれらのビジネスモデルは、日本の繁栄の礎を築いていきます。しかし、この10年程の間に、その地位は韓国や台湾、中国といった新興国に取って代わられました。

 東日本大震災で日本からの部品供給が止まり、世界のサプライチェーンが麻痺したという報道が駆け巡ったのは最近のことです。そして、やはり日本の技術は優秀だったという論評が生まれていったのですが、どうも報道機関による報道内容は、部品や素材、製造設備などが主に取り引きされるB2Bビジネスとコンシューマ製品を扱う消費者向けのB2Cビジネスをごちゃまぜに捉えて同列に扱っているとしか思えません。これでは何を論評しているかわからなくなってしまいます。いくら日本が作る部品が優秀でも、消費者向けの製品を扱うB2Cビジネスが優秀だという根拠にはならないからです。

 今起こっていることは、過去アメリカ等から模倣し、ブラッシュアップしてきた最終製品を消費者に届けるB2Cビジネスは新興国に取って代わられ、最終製品を組み立てるのに必要な優秀なB2Bビジネスである部品産業が残ったということでしょう。

 この部品産業の特徴は、今ある機能部品をブラッシュアップし、機能を高め、コストを低減し、その延長上で他社を凌駕するビジネスを行うという方向性が明確であるということです。こういった産業では、解決しないといけない問題が比較的明確に認識でき、顕在化しているという特徴があります。やるべきことは製品のブラッシュアップだと容易にわかるので、これから解かないといけない問題の設定は容易なのです。

 かつて日本では、B2Cビジネスでもその方向性が明確で、容易に問題を認識し、解くべき問題を設定できました。その結果、各社は横並びで切磋琢磨し、機能を高め、価格を安くしていったのです。ソニーなどが最初に製品を世に送り、松下などの他のメーカーが市場で製品が育ってきたところで横並びで一斉に追従し、利益という果実を味わってきたのです。

 今ではデジタル化による開発スピードアップ、新興国への大規模投資、市場の成長などの要因により、B2Cビジネスの多くが新興国に取って代わられています。顕在化したニーズに応えるという方向性はここでも明確であり、ビジネスの優劣は扱う製品の性能や機能といった目に見えるものとともに価格が大きな比重を占めるようになっています。

 このような状況で今、残念ながら新しい方向性は日本からはなかなか出てきていません。いまだに試行錯誤が続いています。もちろん、環境やバイオといった新しい産業は生まれてきていますが、環境分野での他国企業のキャッチアップも凄まじいものがあります。

 こういった状況で、日本が取るべき道は、現実問題として次の3つしかないでしょう。

(1)生産の現場を新興国に移し、今までと同じルールで顕在化したニーズに応えるというB2Cビジネスを続けること。
(2)B2Bビジネスで扱う製品の更なるブラッシュアップを行い、その結果をB2Cビジネスにおける製品作りにも波及させること。
(3)ジョブズが得意とした製品のリデザインを行う。

(1)に関してはすでに日本は手を打ちつつありますし、(2)に関しては今まで通り突き進んでいくしかありません。そして今、日本に求められているのは、(3)の製品のリデザインだと思うのです。