(4)具体例による説明

 以上の説明は記号化しているために抽象的ですが、理解しやすいように具体化した例で説明します。

 Mさん、Nさん、Oさん、Pさんの4人が友人の結婚式に出るため、大阪から東京に行くことになりました。結婚式の開始は12時です。12時までに目的地に到着している必要があります。大阪から東京に行く交通機関として、航空機(X案)、新幹線(Y案)、高速夜行バス(Z案)、という三つの選択肢(解決案)があります。4人がどの交通機関を選択するか、いろいろ考えてみようという問題です。

①利用可能な交通機関の知識表現モデルによる整理

 交通機関を評価するのに、経済性(A)、利便性(B)、安全性(C)、確実性(D)、快適性(E)の五つの視点を設定しました。もちろん、交通機関を評価する場合、他にもっと多くの視点やその属性があります。いかに多くの視点やその属性をリストアップできるかが「視点力」の強さを示します。

 ここでは、リストアップされた視点や属性をどう整理し、どう判断につなげでいくかということが目的です。できるだけ分かりやすくするために、表3のような単純化した視点、シンプルな属性を取り上げました。  

タイトル

1)航空機を利用する場合、次の表4のようにX案の視点と属性と属性値を作りました。

タイトル

2)新幹線を利用する場合、次の表5のようにY案の視点と属性と属性値を作りました。

タイトル

3)高速夜行バスを利用した場合、次の表6のようにZ案の視点と属性と属性値を作りました。

タイトル

 ここで挙げた属性値はあくまでも説明用に作成した「仮定のもの」です。例えば、経済性について見れば、航空機の場合は格安切符や株主優待券など、さらにマイレージがたまる特典があります。新幹線の場合も各種割引切符があり、通常、例のような単純な比較ができませんが、話を単純化するため、あえて上記の表4から表6のような仮定値を設定いたしました。

②交通機関の選択

1)Mさんの選択
  Mさんは非常に忙しく、目的地にはできるだけ短時間で着きたいと思っています。また、Mさんはせっかちで、ひとつの交通機関に2時間以上乗っているのは耐えられない性格です。少々お金がかかってもこの二つは譲れないと考えています。

  Mさんの重視する視点は「利便性」と「快適性」で、経済性や安全性を軽く考えています。その結果、この二つの視点に絞って表7のような「代替案評価表」を作成しました。

タイトル

 Mさんは表7の解決案評価表から判断して「航空機」を選択しました。

2)Nさん、Oさんの選択

 Nさんは安全第一主義者です。命を失う危険が伴う交通機関には絶対に乗りたくはありません。お金の問題や所要時間にはあまりこだわりません。Nさんが重視する視点は「安全性」です。

 一方、Oさんは安全性重視はもちろんですが、極度の高所恐怖症です。飛行中は落ち着かず、脈拍数が多くなります。当然のことですが、Oさんは「快適性」を最も重視します。したがってNさん、Oさんは安全性と快適性を重視し、表8のように解決案評価表を作成しました。

タイトル

 人命に関わるような事故の可能性(事故の起こる確率と事故が起こった場合に人命に関わる可能性の積)のある乗り物を選びたくないNさんと、高所恐怖症のOさんは、共に新幹線を選択しました。

3)Pさんの選択

 Pさんは大変な節約家で、同じ目的を達成できるのなら、一番安い方法を躊躇なく選択します。将来を考えて、お金を貯めておくことが何よりも大事だと考えています。Pさんは物事の判断の際、「経済性」を最重視します。表9はPさんの代替案評価表です。

タイトル

 節約家のPさんは、表9から高速夜行バスを選択しました。

(5)まとめ

 以上の説明で用いた例は単純化したものですが、「ここまでやらなくても、もっと簡単に結論が出せるのでは」という意見があるかもしれません。私たちが個人や組織として解決しなければならない問題はもっと複雑な場合が多いものであると思っていますから、現実からはいくつもの視点とその属性を取り上げ、その属性値の設定のための情報収集や検討をする必要があると考えています。

 達成すべき目標も単純ではなく、判断に関わる価値観も多様であるのが通常です。こうした場合に、視点をこの属性・属性値リストのように作成して整理すると、より的確に判断ができ、有効であると考えています。したがって、こうした検討が外化して(目に見える形で)行なえる力も「視点力の強化」につながるものと私たちは考えています。