キュレーションの時代
キュレーションの時代―「つながり」の情報革命が始まる、佐々木俊尚著、945円(税込)、新書、314ページ、筑摩書房(ちくま新書)、2011年2月[Amazonで購入]

 「キュレーション(curation)」という言葉に興味を持ったのは、2009年春頃のこと。米国のIT系メディアなどで目にするようになったことがキッカケです。キュレーターは博物館や美術館、図書館などで、美術品や資料などを鑑定したり、管理したりする職業ですが、キュレーションは辞書などでも見かけない言葉でした。

 最初はピンと来ませんでしたが、何度か触れるうちに意味するところに気が付きました。無数の一般人による情報(コンテンツ)のフィルタリングが、FacebookやTwitterに代表されるSNSなどインターネットのソーシャル・メディアを核に広がっていることを指していたのです。

 情報を発信する行為の価値は、以前より格段に下がっています。インターネット上の情報量の急増で、似たような情報が氾濫する状況が生まれているからです。同じ記者発表を多くのメディアが同じ内容で報じる日々のニュースを見るとよく分かります。ニュースに対する新しい切り口や分析があれば別ですが、基本は発表内容をそのまま文章にしていることがほとんど。そこまでして、多くのメディアが新しい情報を発信することに価値があるかといわれれば、疑問符が付きます。

重要なのは、コンテンツを選別する仕組み

佐々木俊尚
フリージャーナリスト。1961年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部などを経て、現職。著書に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)[Amazonで購入]、『2011年 新聞・テレビ消滅』(文春新書)[Amazonで購入]など。(写真:加藤 康)
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 以前は新聞を1紙読めば、読者が受容する情報の内容は完結していました。でも、今は違います。多くの人々が、インターネットを含めた複数のメディアから横断的に情報を拾っている。その結果、数年前から言われてきた「情報爆発」の先に何があるのかが徐々に見えてきたのです。

 重要なのは、コンテンツそのものよりも、コンテンツをフィルタリングする仕組み。その手法として広がっているのが、キュレーションです。これは、無数の情報の中から、ユーザーが自分の価値観に基づいて情報を拾い上げ、それに新たな意味を与えて多くの人と共有する活動を指します。

 従来、情報を選別する役割は、推薦エンジンなどコンピュータによる情報の自動フィルタリング技術が果たすと考えられてきましたし、私も以前はそう思っていました。でも、どうやら中短期的には求められる機能を実現できそうにない。これまで、推薦エンジンで成功したサービスは米Amazon.com社くらいで、ほとんどはその後追い。他の分野では、あまり成功例がありません。

 国内の「情報大航海プロジェクト」などの取材を進めてみると、自動フィルタリングはなかなかうまくいきそうにないと思うようになりました。大きな理由は、まだハードウエアの処理能力が十分ではないことです。あまりにも、自動フィルタリングのアルゴリズムに求められる技術レベルが高過ぎる。現在のCPUパワーとプログラミング技術では簡単には追い付かないのです。