「我々が当初目標としてきたことは、ほぼ達成できたといえるでしょう。問題は、これから向かう先ですね」。

 オフィスならばLEDダウンライト、家庭ではLED電球やLEDシーリングライトなど、日本市場では今、LED照明器具市場が活況を呈してきています。東日本大震災以来、省エネ対策が前倒しで進んでいることがあり、ある照明器具メーカーでは2011年度のLED照明器具の売上高が2009年度比で10倍弱になるそうです。白色LEDは1996年に世の中に登場して以来、いつかは照明の光源になると期待されてきました。そして、性能向上と価格低下に後押しを受けて今年、いよいよ照明の主役に向けて動き出したといえるでしょう。ですが、こうした状況を喜んでばかりいられないという意見が、照明関係者から聞こえてきます。先日、以前からLED照明の取材などでお世話になっている方と話した際に出てきたのが、冒頭のコメントです。

 このコメントの言葉を補足すると「一般的な照明としてLED照明を普及させようと頑張ってきた。これは、ほぼ達成できた。だが、次の明確な目標を立てるのが難しい」となります。せっかくLED照明が一大市場に拡大しようとしているのですから、大量生産体制を敷くとともに生産技術をより高めて低コスト化していくということが、次なる大きな目標になると思われます。ですが、それは相当の覚悟が要るとのこと。LED照明市場はもはや照明器具メーカーだけのものではなくなっているのがその理由です。国内外の新規メーカー、そしてLEDメーカーなどの部品メーカー、IT企業など多種多様な企業の参入で競争が激しくなり、LED照明器具の価格低下によって利益を確保していくのが今後ますます難しくなるでしょう。こうした状況で競争に勝ち抜いていくには大量生産しかないのですが、国内生産や国内市場向けではコスト競争力が高まらない今、海外生産や世界市場を想定しなければ自ずと競争から脱落してしまいます。低コスト化を追求するには海外生産と世界展開は外せません。比較的、“ドメスティック”かつ中小メーカーも多い照明業界がこうした海外展開をどれだけ強化していけるのかが、今後の注目ポイントです。

 次なる目標の候補は大量生産以外にもあります。それが、“LEDならではの照明”の追求です。現在、LED照明の設置状況といえば、白熱電球(あるいは電球型蛍光ランプ)の“代替”、直管型蛍光ランプの“代替”といっても過言ではありません。つまり、言葉は悪いですが、“光源をLEDにしただけ”と言えるのではないでしょうか。もちろん、LEDに切り替えることで消費電力を削減できたり、交換の手間が省けたりといった大きな効果があるので、消費者にとってのメリットは十分あります。ですが、“スイッチを入れて暗いところを明るく照らす”ことには変わりません。ここの消費者意識の変革に、LED照明が目指す次なる目標があると指摘する声が大きくなってきています。

 それでは、消費者意識を変革するには、どうしたらよいのでしょうか。例えば、明るさを制御する調光、そして色温度など光の色合いを変える調色をもっと活用することにヒントがあると思われます。既存光源でも調光や調色は可能ですが、効率よく、寿命に影響せず、細かく制御できる点でLEDは勝っています。液晶テレビに使われるLEDバックライトの制御能力で実証されているので、それを照明に活用すれば、何十、何万、さらには何億通りといった調光・調色も可能です。こうした特徴を照明に併せ持たすことができれば、照明は“照らす”用途にとどまらなくなるのではないでしょうか。

例えば、人間の体内時計による約1日周期のリズム「サーカディアンリズム」に合わせ、自動で調光・調色できるといった機能は、あたかもヘルスケアの側面を照明に持たせられます。明かりによって人間の脳を活性化させたり、リラックスさせたりできるので、オフィス業務や勉強などを効率化できるともいわれます。こうなれば、照明に対する消費者意識を変えられるのではないでしょうか。オランダRoyal Philips Electronics社などは病室の照明として提案していますし、岡村製作所はオフィス照明として製品展開しています。ロームのように、LEDシーリングライトの主要機能として打ち出しているところもあります(厳密にいえば、製品展開するのはローム子会社のアグレット)。

 LED照明をフルに活用した調光・調色の取り組みは、まだ緒に就いたところのようです。これまで活用例が少なかったことがあり、まだいろいろと展開できる可能性を秘めているといわれます。日経エレクトロニクスでは、こうした調光・調色を活用するなど、LEDならではの照明を探るセミナー「スマート・ライティング~LEDとITを融合し、“賢い照明”を実現へ~」を2011年10月28日(金)にパシフィコ横浜で開催します(詳細はこちら)。消費者意識を変えられる“付加価値の高い”LED照明を作るヒントを知りたい方、ぜひご参加ください。当日参加も受け付けています。