イノベーションは一体どのように生まれるのか。個人や組織の創造力、市場、資金、技術など、さまざまな条件がある中で、イノベーションを生み出すのに有利な条件が整っていること、すなわちイノベーション創出を促す「場」や「環境」の提供が重要だといわれている。

 「世界の工場」として中国の沿岸部は、資金、生産技術、そして部品サプライヤーの集積地となりつつある。アップルのiPhoneやiPadの多くは富士康(フォックスコン)の中国工場で作られている。

 「世界の市場」として、最先端の新商品や各国の多くの商品が中国の店頭で並んでいる。中国はグローバル企業にとって、新商品を発売する最優先国の一つとなっている。

 「世界のR&D」として、グローバル企業のR&D拠点の多くが中国において新設され、また既存のR&D拠点は拡大されている。それに伴い優秀な人材が集まり、先進国からの技術とノウハウは中国への移転を加速している。

 資金も、国からのR&D投資が年々増加している。R&D支出をGDPと比較してみると、2010年の1.75%から、2015年には2.2%まで増加する(中国の第12次5カ年計画より)。民間も、ベンチャーキャピタルが大幅に増え、ニューヨーク証券市場で上場した中国系企業が相次ぐ。

 そういった流れから見て、中国ではイノベーションを起こす環境が構築されつつあり、その規模を考えると“世界最大のイノベーション実験場”とも言える。今回から2回に分けて、これをテーマに考えてみたい。今回は、中国の家電量販店で見かけた多くのグローバル企業の商品から、思ったことを述べたい。

 中国の家電量販店を訪れていつも感じることは、日本の家電量販店と製品ラインナップが大きく違うことだ。日本の家電量販店においては、iPhoneやiPadなど世界的に独走しているごく一部の商品以外は、まるで日本製品の展示会のように、日本製がほとんどを占めている。日本では、日本がまだ「家電強国」と感じられるようになっている。

 一方、中国の量販店に入ると、日本の量販店で得られた印象とは全く異なる。あたかも世界の家電製品の展示会のように、多国からの製品がずらりと並んでいる。日本製品はその中の一部に過ぎない。先日、幕張で開催された展示会「CEATEC」では、海外大手からの参加が少なかったが、中国の量販店での日本メーカーの位置づけは、CEATECでの海外メーカーと同様だ。

中国での携帯電話(スマートフォンを含む)事情

 規格は2Gがまだメインなものの、三つの3G国際標準(WCDMA、CDMA2000、TD-SCDMA)のサービスがそれぞれ三つのキャリア(中国聯通、中国電信、中国移動)により提供されている。主な端末メーカーを以下に挙げる。

欧州勢――Nokia、Sony-Ericsson
米国――Apple、Motorola
カナダ――BlackBerry
日本――シャープ
韓国――Samsung、LG
中国――ZTE、Lenovoなど数十社(非正規の山寨携帯電話は量販店では売っていない。それを含めると、携帯端末メーカーは数え切れない)
台湾:HTC

 携帯端末のメーカーの間には、日本と同様にiPhone対Andoridの競争以外にも、中国勢対海外勢、日系対韓国系、アジア対欧米、正規メーカー対非正規メーカーなど、さまざまな競争が展開されている。そのような競争の中で、中国の携帯電話は、世界のトレンドと同調しながら、中国ならではの機能も多数取り入れ、ますます進化している。例えば、日本の携帯電話ではあまり見かけないインスタントメッセンジャー機能は中国ではポピュラーな機能の一つである。山寨携帯電話が最初導入したダブルSIMカードの機能は、海外メーカーを含め、正規メーカーの携帯電話にも採用されているという。

中国量販店の携帯電話機売り場

 このような多国メーカーの競争の中で、少しでも差別化しようとしのぎを削り、ユーザーの興味を惹きつける機能を取り入れようとしている。仕様検討を重ねて、スピードが遅い日系メーカーは、その競争から脱落している。現在、シャープだけが生き残っている状況である。