「これって、原発事故の問題に似ていると思いませんか」――。新しい試験技術「HALT(highly accelerated life test)」について取材した際、取材先の方々からこんな話を聞きました。原発はある基準を想定して造られていますが、想定を超える事態が発生した時に何が起きるかは十分に把握されていませんでした。この問題は一般の電子機器にも当てはまると、HALT関係者の方々はいいます。

 現在、国内機器メーカーの多くは機器の信頼性評価に環境試験を利用していますが、これは「ある基準をクリアしたらOK」という考え方に基づいています。そして、その基準は例えば10年前のものだったりもするようです。これに対し、HALTは通常の機器使用環境ではありえないほど強い温度ストレスや振動を加えて機器を一度壊し、どのように壊れるかを調べます。その上で設計を見直して弱点を補強します。このため、発煙や発火といった深刻な市場不具合を未然に防止できるといわれています。

 このHALTという技術は、1980年代に米国で発明され、当初は軍用や航空・宇宙用の機器開発に利用されました。その後、1990年代以降はパソコンや自動車の設計などに広く活用されるようになり、欧米や台湾、中国、韓国などで普及しました。一方、日本では普及が遅れていましたが、最近では国内大手電機メーカーがHALTの良さに注目し、全社的な導入に動き出しています(関連記事)。

 HALTの活用で最近注目されているのが、韓国Samsung Electronics社の動きです。同社は、1社で40台ものHALT装置を保有しているといわれています。日本メーカーが所有するHALT装置は、「すべてを合わせても20台ほど」(HALTに詳しい関係者)とされていますので、かなり多いことが分かります。Samsung Electronics社をはじめとする海外メーカーが短期間で機器の信頼性を改善できた背景には、このHALTが深くかかわっているとの指摘があります。

 HALTの基本的な考え方は、機器の弱点を補強して信頼性を高めるというものですが、Samsung Electronics社をはじめとする海外メーカーは、すでに次のステップに進んでいるようです。最低限の信頼性を維持しながら、どこまで部品コストを削減できるかという取り組みです。HALTによって、機器の壊れ方や限界点を熟知しているからこそ、こうした機器設計が可能になるといわれています。

 いわゆる「○○タイマー」と呼ばれる手法も、HALTによって可能になると聞きました。こうした技術は日本メーカーの十八番かと思っていましたが、「実は日本は遅れており、海外メーカーの方が進んでいる」(HALTに詳しい関係者)とのこと。機器の寿命を正確にコントロールするためには、HALTの結果と市場不具合の相関を長年取り続けてデータを蓄積する必要があるため、「これから日本メーカーが追い付くのは難しいのではないか」との指摘もあります。

 一方で、HALTも万能ではなく、例えば湿度に起因する不具合を抽出するためには、環境試験を利用する必要があります。日本メーカーは環境試験に関しては世界トップクラスの技術を持っています。今後、日本メーカーが環境試験技術の強みを生かしながら、HALTをどう使いこなしていくのか、注目したいと思います。