ただ、技術というのは、さらに細かく見る必要があると思います。日本はハードウエアの技術力は高いと思いますが、ソフトウエアやアルゴリズムについては昔からそれほど強いわけではない。

 大学の数学教育がおろそかになっているからではないでしょうか。もちろん、大学の教育者としての自分自身にも責任があります。高校レベルまでは数学教育がしっかりしているのですが、大学に入ったとたんに数学を学ばなくなる。その影響は大きいと思います。

加藤 日本の学生はハングリーではないですか。

 もちろん、人によりけりではあるけれども、総じてやさしい印象ですね。やさしいことは悪いことではありませんが、海外はもっと結果に対してハングリーだとは思います。ビジネスにとっては重要な要素です。

 やはり、子供が減少していますから、子供の競争意欲も小さくなりますよね。一人っ子政策の中国も今後数年で同じような状況が起きるかもしれません。解決するのが難しい問題です。社員には、休みの日にはデートをして、結婚して、子供をもうけてくださいとお願いしていますが(笑)。

加藤 教育の場から変えられることはありますか。

 ハングリーでない人間をハングリーに変えるのは難しいことです。大学で私にできるのは、研究室の学生を国際会議にできるだけ連れていくなど、グローバルな空気に触れてもらうこと。海外の文化に触れて成功体験をすると、学生は目の色が変わります。世界に出れば、日本の常識が当たり前ではないことが分かりますから、刺激を受けますよ。私も、日本や米国で生活して自分が変わったと思います。若い人は海外に行って経験してほしいですね。

 だから英語でのコミュニケーション能力はとても重要です。もう一つ大切なのは、様々な事象を抽象的に捉えるトレーニングだと思います。ソフトウエアのプログラムは、すべて記号で構成されています。自分が直面している課題は自然言語のままではプログラムに変換できませんから、記号に置き換える必要があります。

 この抽象化のトレーニングも日本の学生に足りないところです。既に記号化された課題をプログラミングするという講義は、どこの大学にもありますが、現実世界の課題を記号化し、数式で表現する訓練はあまりなされていない。でも、本当に大切で独創的なのは、目の前にある課題を数式で表現できる能力でしょう。なぜなら、それがアイデアを具現化する問題解決の第一歩だからです。学生には、なるべくそこに取り組んでもらえるように、講義では工夫しています。

(この項、終わり)