二つありました。一つは、1999年頃のことです。ある会社に自分の技術的な知見を手ほどきしたら、製品が一つできた。それがキッカケで自分の頭の中にある技術が商売になると分かったんですね。建築や土木の分野で使う測量のソフトウエアで、複数の写真から立体を再構成して、画像中の距離を測れるようにするものです。

 もう一つは、大学の教員とは別に手掛けていたボランティア組織の運営の体験です。中国の貧しい地域の子供たちに奨学金を提供したり、小学校を作ったりする活動で、これは今も続けています。日本の皆さんの善意のおかげで、中国に学校を10校ほど建てて、1000人以上に奨学金を提供できました。自分もがんばれば、他の人を巻き込んで事業ができると実感したんです。

加藤 そうした経験が起業につながったわけですね。

加藤氏
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 正直なところ、会社とは何かが分かっていたわけではないし、とにかく会社を立ち上げてみたという感じでした。十分に調査したかと言えば、そうでもない。作ってみたはいいですが、すぐに運転資金にも困る有様でした。ただ、当時は、まだ大学発ベンチャーが少なかったこともあり、メディアに取り上げられてそれなりに有名になったんです。それが、出資を受けることにつながりました。

 会社経営の方法論は分かりませんでしたが、走りながら市場のニーズを見て、開発分野を変えながら進みました。最初の数年は、私の経営の勉強期間でしたね。

加藤 会社を経営する中で、研究者・技術者として学んだ点はありますか。

 実際のビジネスでは、多くの技術的な課題があるということが分かりました。純粋に研究だけの時代に知覚できた課題は、非常に狭い範囲でしたね。ビジネスでは顧客の声がありますから、それで初めて分かる課題の範囲がぐっと広がりました。これは、研究者としては大きな収穫だったと思います。

加藤 そういう体験をなさった徐さんには、今の日本の技術力はどう見えますか。

 ものづくりに関しては、まだまだ優れています。円高の影響で価格競争力で苦しい状況ではあるのは事実ですが、ものづくりの力が落ちているとは思いません。