台湾のエレクトロニクス業界、いや、いささか意地悪な言い方をすれば、米Apple社のタブレットPC「iPad」のサプライチェーンに入り損ねた台湾系業者にとって、待望久しい端末が登場した。米Amazon.com社が米国時間の9月28日に発表したタブレットPC「Kindle Fire」がそれだ。
台湾や中国のメディアがAmazon.comのタブレットPCについて報じ始めたのは2011年5月ごろから。ノートPC受託生産で世界最大手のODM企業、台湾Quanta Computer社が受注したとの観測を皮切りに、「Amazon.comがタブレットPCの発注を単月80万台から100万台に引き上げた」「Appleを除くタブレットPC市場で2割のシェアを占め最大になる」等々、先行きを期待する報道が相次いだ。
台湾のIT専門民間調査会社であるTopology Research Institute(TRI)も8月中旬に発表したレポートで、「世界中に2億人のユーザーと完備したサービスのプラットフォームを擁するAmazon.comのタブレットPCは、iPadにとって最大の強敵になる」との見方を提示。サプライチェーンとしてQuantaのほか、電子書籍端末「Kindle」に電子ペーパーE Inkを供給する台湾Prime View International(PVI)社、PVIの液晶パネルを受託生産するChunghwa Picture Tubes(CPT)社、タッチパネルのWintek社、光学レンズのNewmax社を挙げていた。
今回発表したKindle Fireに、Amazon.comはカメラと通話用マイクを搭載しなかった。その分、価格は登場前に予想されていたiPad 2の米国での販売価格499米ドルの約半額に相当する250米ドルよりもさらに安い199米ドルという低価格を出してきた。
Kindle FireがiPadの最大の強敵と目されるのは、Amazon.comが100万冊以上の電子書籍、1700万曲の音楽、10万本以上の動画という圧倒的なデジタル・コンテンツを誇るためだ。TRIは、「タブレットPCの部品表(BOM)は概ね1台あたり250~300米ドルの水準にある。よって300米ドル以下の価格設定では、ハードウェアの販売で利益を得られない」とする。「しかし、安い価格設定はハードウェアを急速に普及させることに役立つ。その後、ソフトウェアのサービスと広告を通じて利益獲得が可能であるのがAmazon.comの強みだ」としている。