トヨタ自動車、コマツ、東芝、OKI、ホンダエンジニアリング、東洋ゴム工業、セイコーエプソンが、革新的な生産技術を生み出しています。生産規模が小さくても利益が出せるライン、成熟した基本技術でありながら一層効率を高めた設備、海外EMS企業では不可能な品質を保証する手法、他社ができないデザイン品質を世界最速のスピードで実現するノウハウ、品質向上と変種変量生産の両立を実現する新工法…。日本メーカーの技術者ならワクワクする内容ではないでしょうか。

 「理屈を超えた国内生産」に挑む、トヨタ自動車の生産技術部門を率いる新美篤志副社長にもインタビューし、同社の生産技術の考え方や革新技術を生み出す方法をお聞きしました(『日経ものづくり』2011年10月号 私が考えるものづくり「生産技術は競争力の源泉だ」)。

 こうした取材を通じて、記者としても勇気が湧いてきました。「日本のものづくりは、まだまだ強い」と実感できたからです。本誌『日経ものづくり』は2011年10月号から誌面を一層強化するために誌面刷新をスタートさせました。その第一弾の特集のテーマとして選んだのが「生産技術」です(『日経ものづくり』2011年10月号 特集「生産技術の底力トヨタ、コマツ、… 強い現場は頭を使う」)。背景には、日本の製造業が元気になれるような話題を提供したいという気持ちがありました。

 ご承知の通り、生産技術とは、図面というアイデアを具体的な製品に変えていくための技術。機能も品質もコストもスピードも、ここで大きく決まります。まさに、ものづくりの「心臓部」であり、競争力の源泉であるといえます。

 新興国の台頭に加えて、震災、そして欧米の金融/財政不安から来る円高に見舞われ、日本の製造業を取り巻く環境は厳しくなる一方。これを受けて国内工場の海外シフトが大きな話題となっています。しかし、こうした空洞化は中長期的に日本の経済にとってマイナスになる可能性があるだけでなく、競争力アップのための根本的な解決策にもなり得ません。コスト削減のために人件費の安い国に工場を移したとしても、競合他社も同じことを考えるからです。ここで競争力を本質的に高めるカギの1つが、生産技術というわけです。

 日本メーカーは総じて、潜在的に生産技術力が高いと言えます。生産技術は、技術、ノウハウ、暗黙知、技能といった価値の集合体であり、蓄積がものをいうところがあります。これが、新興国のメーカーと比較した明確な優位点です。

 中国の自動車メーカーの社員がこう言っていました。「生産ラインは機械や設備を買ってくれば簡単に構築できる。金型はソフトウエアがあればすぐにコピーできる」と。優れたハードウエアとソフトウエアの登場により、技術やノウハウの蓄積がそれほどない新興企業でも、比較的簡単に製品が造れるようになりました。市販品では差がつきません。重要な部分の機械や設備、ソフトウエアを内製するか、生産技術を加えて付加価値を高めなくては日本メーカーには勝ち目がないということです。

 「そんなことは分かっている」と言われそうですが、本当でしょうか。というのは、「日本メーカーの生産技術力が弱体化してきた」という声がいろいろな所で上がっているからです。低賃金を求めた安易な海外シフトの結果、何が何でも生産技術力を高めようというかつての意欲をいつの間にか忘れてしまっている、ということはないでしょうか。環境の厳しさは、全ての日本メーカーに共通のものです。しかし、冒頭に紹介した7社は逆境をばねにして、知恵を絞りに絞って革新的な生産技術を創造し続けているのです。

 取材して発見した、この7社の生産技術者に共通する特徴は?
「できないとは言わないこと」です。