QUMA技術開発を下支えした“開発合宿”メンバーたち

 今回公表したQUMA技術の開発を担当した伊藤氏、久池井氏、栗川氏の3人の中核メンバーを支えたのも、情報処理推進機構の未踏ユースの仲間だった。その一人は、現在、サイボウズ・ラボ(東京都文京区)に勤務する西尾泰和氏だった(西尾氏は2002年度の未踏ユースに採択された)。2009年ごろから、3人の中核メンバーは西尾氏にあれこれ相談し、西尾氏に紹介された人物や企業に、QUMA技術の事業化の相談に行ったりしていた、

 もう一人は当然、ソフトイーサの登氏である。伊藤氏、久池井氏、栗川氏の3人の中核メンバーは、登氏と西尾氏にあれこれ相談した。この「天才二人には、本当に感謝している」と、久池井氏はいう。

 興味深いのは、未踏ユースの互いに尊敬し合う仲間同志で不定期に開催される“開発合宿”での議論だった。未踏ユースの親しい仲間同志で、3日程度、自主的に集まって合宿する“開発合宿”は、ある開発テーマを徹底的に話し合うブレインストーミングのようなものらしい。

 最近はノート型パソコンの持ち込みを禁止し、合宿中にソフトウエアを書くことを禁止している。若手の天才的なIT開発者が得意技を誇示しても意味がないからだ。最近の流行は工作キットの製作などで、「モノづくりの原点を楽しんでいる」という。ただし、単なる工作キットの完成ではなく、盛り込まれる独創的なアイデアをお互いの存在価値として誇示しているようだ。当然、この開発合宿の最中でも、QUMA技術の製品化や事業化を根底から話し合ったようである。

 さらに、実際にQUMA技術の事業化を進めるためには、登代表取締役の意向がポイントになる。この点は、まだ実用化されていない直感的に使え、低価格でいろいろな用途に使えるという仕様を満たすことが、ユーザーが満足する製品を実現し、事業として成功するカギとなる。この独創的な製品仕様を相談し、ソフトイーサが事業の中核を担当する事業モデルを描いているようだ。IT世界で社会的に認知されたソフトイーサが中核を担い、QUMA技術のプラットフォームを提供することは、事業成功への道となるだろう。

優秀なIT技術者が仕事をしやすい、少数精鋭の職場環境を貫く

 ソフトイーサは創業第3期の2006年度から2009年度まで、1億円強の売上高を達成し続けている。税引き後の利益は2006年度から2008年度まで黒字を維持した。公表されている最新の2009年度は同利益が約1000万円の赤字になっているが、これは事業投資によるものである。

 驚くことは役員と従業員の総数は、2010年3月時点で10人と少数精鋭だったことだ。「つい最近減って、9人になった」と、登代表取締役はいう。闇雲に従業員を増やすという成長路線を採っていない。ユーザーに尊敬される優れた技術・サービスを開発し、事業化できる優れたIT開発者しか採用しない構えである。

 日本の若手プログラマーなどにとっては、同社はあこがれの存在ではあるが、原則、求人募集をしていない。伊藤氏は「入社志願者は確かにいるが、入社してほしい人物と、入社希望者の資質の差は大きい」という。この点から、同社は未踏ユースなどで育成された、かなりできる若手IT開発者が集まる場であり続けることが成長戦略になっているようだ。

(注)ソフトイーサが創業された2004年4月から現在までに、本記事に登場する方々は転職したり、肩書きが変わったりしているため、原則、現在の肩書きを通して用いた。

(注)2011年7月21日にソフトイーサなどの3社が公表した「QUMA」技術の記事は URL=http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110721/193493/
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