中国技術者の知恵は世界へ

 グローバル企業は、中国の経済環境の変化に応じて、これまでの生産拠点と消費市場としての活用から、真の研究開発拠点としての技術活用へと転換している。その中でも、マイクロソフトとインテルなどのアメリカ企業が先行している。

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200億円の費用を掛けて新しく建てられたマイクロソフト中国のR&D拠点(北京)の本部ビル。5000人が働き、マイクロソフトの海外最大規模の拠点である。中国においてIQ密度が一番高いビルと言われているようだ。

 マイクロソフトの中国R&D拠点は、1995年に設立された中国研究院がそのスタートだ。それから、規模はどんどん拡大、研究開発の内容も本社側のテーマ委託から、基礎研究、主力商品のコア技術開発まで発展。マイクロソフトの重要な研究開発の拠点になり、昨年、名前も「マイクロソフトアジアパシフィックR&D集団」へと変更された。今年、5000人を収容する新自社ビルも竣工された。

 最近世界中に大人気を博したゲーム機用のジェスチャー入力コントローラ「Kinect」の成功は、長らく研究されてきた自然ユーザー・インターフェース(NUI)が実用段階に入り、さまざまな応用展開の可能性があることを示した。マイクロソフト中国のホームページでの紹介によると、そのNUIのコア技術は、マイクロソフトアジアパシフィックR&D集団の研究開発成果であるという。

 実は、NUIの重要部分となるマルチメディア技術の基礎研究は、前身であるマイクロソフト中国研究院から始まっている。重要な研究がされていたことは、数学を得意とする中国の優秀な人材が多いという背景も関係していた。研究内容は、数年の内に世界にも重要な位置づけを持つことになる。毎年開催されるIEEEのマルチメディアに関するカンファレンスでは多数の論文が採用されたという。

 マイクロソフトアジアパシフィックR&D集団の貢献は、Kinectのコア技術だけではない。同社の傘下であるマイクロソフトアジアハードウェアセンターは、Kinectのプロトタイプの開発にも大きく貢献したという。

 深センにあるマイクロソフトアジアハードウェアセンターは、マイクロソフトのハード製品を手掛ける中国のOEM工場に技術サポートを提供するために設立された。当初は電子回路の設計、テスティング、生産技術などからスタートしたが、マイクロソフト本社R&D拠点と密に連携することで実力をつけ、そして独自の製品開発力の強化にも力を入れている。Kinectのジェスチャー入力装置の開発は、2009年の春、家庭用ゲーム機「Xbox」の開発部門からその可能性を打診されたときから開始したという。北京にいる基礎技術の研究者との共同開発で、たった一年間でプロトタイプが完成した。

 インテルもまた、中国を生産拠点としての利用から研究開発の主要拠点として活用している。2005年、上海で正式に設立されたインテルのアジアパシフィックR&Dセンターは、創立してから7年間で従業員の人数は1500人まで拡大され、インテルが成長するうえでの技術エンジンの一つになっている。

 例えば、Googleなどと連携して、インテルのCPUをベースとしたGoogleTVのプラットフォームの開発に上海R&Dセンターのチームは大きく貢献した。その結果、インテルにおける社内表彰の最高に値する「インテル貢献賞」(Intel Achievement Award)を獲得した。インテル初のネットブック・プロトタイプなど数多くの技術開発もそこから生まれている。

 マイクロソフトとインテルの中国R&D拠点がこのように目覚ましい成績を収めた大きな要因は、良好な研究環境と待遇で、中国の最優秀の人材がマイクロソフトとインテルに集まったことと言える。両社の研究環境は、中国の最優秀の人材の能力や知恵が最大限に発揮できるものである。マイクロソフトの中国R&D拠点は設立以来、既に10人以上がIEEEからフェローの称号が贈られている。また、インテルの上海R&D拠点は、設立してからの7年間で36人、7個のプロジェクトがインテル貢献賞を獲得した。

 一方、製造業の急成長に伴って急速に向上している応用技術の開発レベルもまた、両社のリバース・イノベーションを支えている。深センが中心となる中国の珠江デルタエリアは世界最大の電子製品生産の集積地であり、プロトタイプや量産技術の開発に必要なさまざまな部品や最新の生産技術が手に入れやすい。ハイテク製品の試作や量産技術の開発に非常に役に立つと言える。Kinectの開発成功の裏には、これらの要因が無視できない。