(2)コミュニケーション力の向上に向けて

 コミュニケーション力が最も必要とする場の一つに会議があります。例えば、会議の参加者で意見の異なる相手の話をよく理解し、自分の考えを率直に述べ、時には相手を説得し、時には相手に同調しつつ、反対意見も述べます。そうした意見交換のプロセスを経て、共通の結論を出す場が会議なのです。会議においては、議論がかみ合わないことも多々あります。

 このような場合、互いの視座と取り上げている視点が異なっており、ある場合に自己主張が強く、ある場合は雰囲気から、ある場合は意地から、相手の言い分を正しく理解しようという度量がないから起こるのです。このような議論では、お互いに自分の立場や意見へのこだわりが強いために対立が生じます。

 相手と対立が起きた時は、まず相手はどんな立場(視座)で、何に関心(視点)を持っていて、何を大切にしながら(価値観)、何を守ろうとしながら、今どんな段階で議論しようとしているのかを、しっかりと見定め直すことです。そうすることで、相手と自分の間で何が異なっているのか、何が一致点か、論理的に正しく認識して、まず共通の視座と共通の視点と折り合える価値観でもって、今後の議論を進めることができるでしょう。
 
 相手の意見を聞くためには、相手がどんな立場や役割(視座)で、何を関心事や論点(視点)にし、どんな価値観を持って話しているのかを意識して聞くと、相手の意見を理解しやすくなります。つまり、「視座意識」と「視座転換」をしてみることです。それをせずに自分の視座と価値観だけで押し通すと、相手に反感を覚えたり、相手の真意を理解できなくなります。

 自分の考えを述べるには、自分の伝えたいことをあらかじめ明確にしておくことや、論理的な展開を考えておくことはもちろんですが、さらに、その上にそれらを相手に理解してもらうための事前の配慮が必要です。事前の配慮とは、まず、自分の視座、視点、価値観を整理し、相手に明示することです。そうすることは、同様に相手も相手の視座、相手の視点、相手の価値観を明確にしてくれることにもなります。

 公平に見て自分の主張が正しいとしましょう。自分の主張を受け入れようとしない相手を説得するためには、その会議の目的に立ち返り、それを意識し合い、その会議の出席者の互いの視座、視点、価値観を認識し直すことを始めましょう。その上で、自分の主張をその会議で必要としている視座、視点、価値観に照らし合わせて、説明し直すと効果的になります。これは、相手に「視座意識」と「視座転換」を悟らせる方法なのです。

 公平に見て双方の主張に良い点があって共通の結論を出すには、その会議に出席しているメンバーがその会議の議題の目的に合わせて、共通の価値観を共有することが理想です。そのためには、議題に関わる視点を多面的に取り上げ、視点に付随する価値観を評価し、認め合い、その上で会議の目的とする価値観を意識し合うことです。

 文書にする内容を論理的に漏れなく記述するために、要素の漏れをチェックする手法に、新聞記者用語の「5W1H」があります。また、教育の場には7W1H1D(このコラムの執筆者の一人である石桁氏が提唱している文章構成要素。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、Whom(誰に対して、誰を、誰と、など)、What for(何のために)またはWhy(なぜ)、What(何を)、in What(どんな手はずで)、How(どんな方法で)、Do(どうする)からなる九つの要素を明示する記述方法のこと)で点検する方法があります。

 新聞記事については、この五つのW(いつ、どこで、誰が、なぜ、何を)と一つのH(どんな風に)を中心に記述します。企画書や報告書では七つのWと一つのH、一つのDを使って要素を構成して文章を作り、企画者や報告者の意図を明示します。7W1H1Dはそのための必要不可欠な視点群をセットにしたものです。

 つまり、視座(誰が、誰に、誰を、誰と)、視点(いつ、どこで、何を、どんな手はずで、どんな方法で、どうする)、価値観(何のために、あるいはなぜ)を意識することで、自分の意思伝達力が向上するはずです。当然、表現技術は別途磨く必要があります。

 コミュニケーションの基盤力を向上するための要点には、以下のようなものがあります。

 ・自分の視座と視点、価値観を意識すること
 ・自分の視座と視点、価値観を相手に表明すること
 ・相手の視座と視点、価値観を理解すること(空気を読むことに通じる)
 ・視座意識と視座転換をすること
 ・相手の視座を把握すること
 ・相手の設定している視点を把握すること
 ・互いの視点を確認し合うこと
 ・互いの視点に漏れ落ちがないかを互いに確認し合うこと
 ・その視座と視点にこだわる価値観を理解すること
 ・相手に自分の価値観を具体的に伝えること
 ・自分と相手を含めた関係者間で価値観を共有すること