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技術経営戦略考

未来予測(その3)「エレクトロニクス産業はこう変わる」

  • 田中栄=アクアビット 代表取締役
  • 2011/09/09 11:00
  • 1/2ページ

「20世紀の郷愁」との決別

 液晶パネルと半導体は代表的な最先端製品であり、かつてこの分野で日本メーカーは世界をリードしてきた。それを可能にしたのは、「安くて優秀な」労働力と圧倒的な資金力だった。だが、それは過去の話。いまでは韓国、台湾、中国などの企業に市場を奪われ、かつての面影はない。韓国のサムスン電子のフリーキャッシュフローは現在約10兆円だが、日本のエレクトロニクスメーカーが動かせる資金はその数分の1程度でしかないのである。

図1 未来予測レポート エレクトロニクス産業 2011-2025
[画像のクリックで拡大表示]

 ハイテク部品や組み立て型商品の、日本メーカーが占めるシェアは軒並み下がっている(図1)。経済のフラット化によって、新興国の経済成長が一斉に始まったことに加え、自由化・グローバル化によって、どの地域でも同じような環境でビジネスが展開できるようになったからだ。結果をみれば、最先端の製品であっても、その多くは製造装置さえあれば新興国でも作れてしまうのであった。エレクトロニクス分野ではモジュール化や水平分業化が進んでいるため、こうした製品が生まれやすかったといえるだろう。

 このような、マニュアルによってオペレーションできれば製造が可能になる製品の分野では、新規参入が相次ぎ、同じような製品が市場にひしめき合って、結局は熾烈なコスト勝負になってしまう。そこでコスト削減に知恵を絞るわけだが、製造装置はどこで買っても価格に大差はない。それではということで新たな生産技術の開発に取り組んだり、生産現場で改善運動を進めたりする。だが、それらの技術や方法論も、結局はどんどん拡散していく。そしてしばしば、人件費や土地代、市場との距離といったことがコスト競争の勝負を握る重要な要素になるのである。残念ながら、こうした点で日本メーカーにアドバンテージはない。

 欧米諸国がライバルだった時代は、そうではなかった。労働者の質は十分に高く、人件費は欧米に比べて低かったはずだ。そのアドバンテージを競争力とするために、日本の製造業は「安くていいモノをまじめに作る」ということを信条として掲げ続けてきた。

 実際に、経済成長はこれによってもたらされたので、決して間違っていたわけではない。だが、企業をとりまく環境は大きく変わり、栄光は20世紀の郷愁になりつつある。新興国にコスト競争を仕掛けられたものたちは、次々に脱落していく。その現実を見つめれば、新興国と同じ競争軸で競うべきではないということが、いやでも分かるだろう。コストに加える、あるいは替わる競争軸を見いだし、それを武器とできるまでに磨き抜かねばならない。その競争軸とは、たとえば欧州勢がしばしば武器として使う「コト」の魅力であり、米国がそれでもって覇権を広げる「モノ+サービス」の力であろう。

業界のボーダーが消える

 歴史は繰り返す。かつて欧米は、日本という新興国とのコスト競争に敗れ、いくつかの産業は壊滅的な打撃を受けた。そこで彼らは過去を捨て、コストではない、新たな競争軸を模索した。

 その葛藤の結果として欧州が手にしたものの一つが、たとえば「高級ブランド品」だろう。その商品は「モノ」に見えるが、多くの人たちがそれに価値を感じるのは、そのモノの背後にある伝統、有名人が愛用しているといったエピソード、「こんなところにまでこだわりがある」といったウンチク、商品だけでなく店舗、企業姿勢などの総体を貫く美意識といった、「モノ」と不可分な「コト」の部分である。この戦場で勝利を得るために必要なのは、「1円でも安く作る」ことではない。「1円でも高く売る」ことなのである。

 米国企業は米国企業で、欧州とは違う多くの戦略を生み出した。だが、それらはいずれも万能ではない。ある産業分野で、あるものだけが選択し得る戦略であろう。結局は、こうした先達が編み出した多種多様な戦略を参考にしつつも、それぞれがこれまでの歴史、自身が属す産業分野、いまの立ち位置などを勘案し、自らに適した戦略を打ち立てなければならない。

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