キープロセスは業務全体の1割

 2010年の調査結果から得られたキープロセスは以下の6つである。約60ある開発プロセスのうち6つ、すなわちたった1割の業務に着目することで日本製造業の製品開発が成功する可能性を格段に高められるということだ。

  • ① 開発期間、工数、費用などの見積
  • ② 進捗管理と計画の見直し
  • ③ デザインレビュー(設計検討会)
  • ④ 社内コミュニケーション
  • ⑤ リーダーシップ
  • ⑥ 手配のタイミング

 製品開発に成功したプロジェクトと失敗したプロジェクトにおいて、これら6つの開発プロセスは何が違ったのだろうか。良い例と悪い例を紹介しながら違いをみていきたい。

① 開発期間、工数、費用などの見積
 このプロセスでは「製品開発の活動項目を洗い出し、製品の難易度や問題発生時の対応も考慮して、妥当な作業工数や期間、費用の見積を行っていること」が求められる。

【悪い例】
 ×技術的な難しさを考慮せず、商戦があるので納期が決まっている。 
 ×エイヤで開発メンバーを決めてしまう。
 ×製品構成と材料の確認なしに目標コストありきで費用を見積る。

【良い例】
 ○前回の開発プロジェクトのリソース実績に、今回開発する重要な技術特性(新しい技術や目標特性値など)を加味した上で、開発リスクを網羅的に把握し、開発期間・工数を見積る。
 ○企画段階から原価企画、調達や本社/関連事業部とも連携し、流用・共通部品の割合も加味しながら費用を見積る。

② 進捗管理と計画の見直し
 このプロセスでは「製品開発の進捗を定期的に管理し、予定と実績に差異が生じた場合は、差異の大きさに応じてただちに計画を是正していること」が求められる。

【悪い例】
 ×プロジェクトスタート時は綿密な計画を立てるが、立てっぱなしで見直しをしない。
 ×メカ設計が主体になり過ぎ、エレキ、ソフトの進捗が見えず、デザインレビュー直前で帳尻を合わせる。

【良い例】
  ○構想設計、詳細設計などの開発フェーズ毎に、メカ、エレキ、ソフトのそれぞれに目標が明確で、定期的に予定と実績の差異を確認し適切に見直しを行っている。

③ デザインレビュー(設計検討会)
 このプロセスでは「設計完成度やコスト、納期に関する問題を、必要なメンバーでタイムリーにレビューし、解決につなげていること」が求められる。

【悪い例】
  ×検討会を開催しても、必要なメンバーが集まらない。
  ×課題は挙がるものの、解決方針、担当、期限がその場で明確に決まらない。

【良い例】
○検討項目と到達すべき目標が決まっており、有識者を含めた建設的な検討が行われ、解決方針、担当、期限を明確にしている。

④ 社内コミュニケーション
 このプロセスでは「製品開発チームは社内の関連部門(営業、企画、品質保証、生産技術など)と互いに十分な意思疎通を図っていること」が求められる。

【悪い例】
  ×設計が主体になり過ぎて、営業、企画、品質保証、生産技術間でのコミュニケーションが少ない。
  ×デザインレビューなどのイベントが無いと、担当間のコミュニケーションが行われない。

【良い例】
  ○必要な情報が背景も含めて関係者間で共有され、計画や進捗の変更があれば速やかに伝わる。

⑤ リーダーシップ
 このプロセスでは「リーダーは活動の目的を明確にした上で、状況に応じて必要な判断を行い、製品開発メンバーを導くこと」が求められる。

【悪い例】
  ×製品開発において決定すべきことを先送りし、デザインレビュー時に承認者・有識者などから指摘される。
  ×やるべき作業だけをメンバーに伝え、その意味や目的を伝えない。

【良い例】
  ○製品開発を計画通り進めるために、重要な事項を率先して調整、決定している。
  ○製品開発メンバーの思い、強みや弱みを把握し、業務を通じてメンバーのやりがい、成長を促す。

⑥ 手配のタイミング
 このプロセスでは「手作り試作や量産試作の手配をする際に、調達、製造のリードタイムだけでなく、図面の完成度も考慮すること」が求められる。

【悪い例】
  ×図面に記載された寸法公差に根拠がなく、加工要件や金型要件を十分検討しないまま、とりあえず発注し、後で調整している。

【良い例】
  ○調達や品質保証と連携しながら重要なキー寸法や、コストダウンのための製造要件を初期打合せ時に図面に記載し手配をする。

2007年と2010年とのキープロセスの変遷

 2010年の製品開発が成功するためのキープロセスと2007年のキープロセスは異なることがわかった。たとえば2007年のキープロセスの一つにデザインレビュー(設計審査会)というものがあったが、今回の6つのキープロセスには入っていない。このプロセスの平均評点は2007年から大きく伸びており、成功と失敗の明暗を分けるキープロセスではなく、製品開発における必須プロセスになったと考えられる。実際に弊社ホームページへのアクセスも、トップページに次いで閲覧数が多いのがデザインレビューに関連するページだ。関心の高さと同時に、各企業ともデザインレビューのプロセスを改善していることが伺える。

 ちなみに今回紹介した2010年のキープロセスに登場したデザインレビュー(設計検討会)との違いは、設計審査会はISOなどで取り決められたフォーマルなプロセスであるのに対して、設計検討会は製品開発の中で実施されるよりインフォーマルのプロセスであることだ。つまり、開発期間の短縮や人員削減という開発条件の中でプロジェクトを成功させるためには、今まで以上に日々のレビューの充実度が影響するといえる。このように、時代とともにキープロセスは変化しており、変化に対応していくことが必要であるといえるのではないか。

 今回の結果は自動車関連、家電関連、半導体関連、ソフトウエア関連などあらゆる業界をひとまとめにして分析した、いわば日本製造業全体のキープロセスであり、全ての業界においてキープロセスとなりえる。ただし、業界ごと、ひいては企業ごとにキープロセスは変わる可能性がある。各社固有のキープロセスを抽出し、改革を進めた事例もあるので参考にして欲しい。

 次回は、システム設計をうまく進めるコツをお伝えする予定である。