「ノリちゃん」「ノリさん」と選手からは呼ばれ
「コンゴ戦のことは今後考えます」といったオヤジギャクを連発し
ワールドカップ決勝戦のPK戦の直前は円陣の真ん中でニコニコ微笑む

 女子サッカーワールドカップで優勝を成し遂げた、なでしこジャパンの佐々木則夫監督。女子サッカーは、日本ではまだまだマイナーなスポーツです。生活費もままならないような恵まれない環境で、アルバイトをしながらサッカーを続けていた女性たちが、佐々木監督のもとで実に生き生きと、心の底から楽しそうにワールドカップを戦い抜き、見事に優勝を勝ち取りました。

 18年にもわたって日本代表チームを引っ張ってきた澤穂希選手や、事故を起こした福島第一原子力発電所で働いていた鮫島彩選手といった個性的な選手の話題とともに、選手たちの潜在能力を最大限に引き出した佐々木監督のリーダーシップが注目を集めています。今回のコラムでは、多くの日本人を感動させた、なでしこジャパンの人間ドラマの中から、佐々木監督の共感力について取り上げたいと思います。

 佐々木監督は、なでしこジャパンの指導者になる以前は、男子サッカーの指導者を長くしていました。そして、女子サッカーチームの監督となってからは指導方法を変えたそうです。男子チームのように、選手を「上からの目線」で厳しく叱咤するのではなく、女子チームでは「横からの目線」で選手たちの信頼を勝ち得ていったと言われています。

 選手と同じ目線で接し、作戦や練習方法などについて、選手の意見をよく聞く。選手をほめて自信を持たせる。レギュラーも控えも選手全員を平等に扱い、試合の翌日の練習では、試合に出れなかった控えの選手の指導を行う。調子を落としていたり、落ち込んだ選手、試合に出ていない選手にそっと寄り添ったりして、気持ちをケアする。決して偉ぶらず、選手だけでなく、サポートスタッフにも配慮する。サッカー場以外でも、普段からとても気さくにふるまい、オヤジギャグで選手をなごませる。

 ただし、「横からの目線」、共感といっても、厳しい勝負の世界ですから、佐々木監督は選手を甘やかしたり妥協したりしたわけではありません。怠慢なプレーに対しては厳しく指導。長年、日本代表を引っ張ってきたベテラン選手でも、力が落ちてきたら容赦なく代表から外すこともあったようです。共感する相手は、あくまでも、一生懸命にやっている人。やる気が無かったり、できない言い訳ばかり言う人は佐々木監督も相手にしないでしょう。

 女性は真面目で、周りの人を思いやり共感する、共感力に優れています。佐々木監督はそんな女心に寄り添い、活かしきることで、大きな力を引き出しました。佐々木監督自身が共感力に優れていたために、女性の特性を見抜き、女性から信頼を勝ち得た、と私は思います。

 確かに、身のまわりの経験からも男性と女性は違うように感じます。私の子供は小学生なのですが、学童保育の先生方に聞くと、小学校低学年から男の子は競争が好き。男の子は、すぐ喧嘩するけれど、ちょっと経ったら、喧嘩のことはケロッと忘れて、喧嘩した子と一緒に遊んでいる。一方、女の子は、勝ち負けよりも、小グループでまとまって遊び、和を保つことを好むそうです。でも女の子は、万が一仲が悪くなってしまうと、修復不能になるほど、仲の悪さが後を引く。

 例えば、卓球では男の子はすぐ得点をつけて試合をしようとしますが、女の子はラリーをお互いに続けようとする。人形遊びだと、男の子は、すぐに人形同士を戦わせ、優劣を決めようとしますが、女の子は仲良く遊ぶことを目的とする。この男性と女性の違いの原因は、生理学的な先天的なものなのか、それとも、「男は逞しく、強くあれ」「女は優しくあれ」といった、社会規範のプレッシャー、後天的なものなでしょうか。

 男女の違いの原因はともあれ、佐々木監督の共感力は、女性の特質を的確に見抜いた卓越した「女性向けの指導法」だったわけです。この共感力は、女性に対するマネージメントだけに留まらず、「フラット化した」これからの時代を生き抜くために必要な、大変重要な能力ではないかと私は考えています。