進出日系企業の自動化の事情に詳しい上海のあるビジネス誌編集長は、「中国の生産工場における自動化は、これまでの半自動化から全自動化にシフトしつつある。洗濯機に例えるなら、二槽式から一槽で全自動の洗濯乾燥機への買い替えが始まったようなものだ」と話す。「全自動化にはとにかく莫大な初期費用がかかる。そこで人件費が安かった時代は、反復作業や危険な工程は自動化して機械にやらせ、その他は人手を使うなどの手法でコストを抑えることができた。蛇口をひねったり洗剤を入れたり、脱水する際に洗濯物を人手で移したりと、要所要所で人手が必要だった二槽式で洗濯していたように。ところが昨今は、人件費が高騰した上に、工場での労働を嫌う若者が増えたことにより人集めが難しくなってきた。利益率の低いEMSは自動化を進めても利益の向上にはつながらないと指摘する向きもあるが、大きな流れとしては、巨額の初期投資を払ってでも全自動化を進める方が、トータルのコストで安いという時代になりつつある」

 中国政府の人力資源社会保障省は7月12日、北京、上海をはじめとする全国16省市の賃金引き上げの指標を公表した(=表)。平均引き上げ幅で最高となったのは河北省で18%、最低の北京と福建省でも10.5%と、極めて高い水準となっている。

表●2011年上半期の中国16省市の賃金引き上げ基準(単位:%)
省市
上限
基準値
下限
北京
15.510.55
天津
22167
河北
25188
山西
28164
遼寧
19125
上海
18136
江蘇
上限設けず13-156-8
福建
9-1210.50
山東
23156.5
貴州
22173
雲南
20134
陝西
20155
甘粛
18146
青海
20135
寧夏
17140-マイナス
新疆
20166
出所:中国人力資源社会保障省

 このうち6月3日に13%の賃上げを勧告した上海市当局は、企業が賃上げ率を決める際に留意すべき点として、「給与水準が比較的低い生産ラインの従業員の引き上げに注力せよ」と強調。生産ライン従業員の賃上げ幅は、その企業の平均上げ幅を下回るべきではないとした。すなわち、当局主導で生産ライン従業員の賃金の底上げを図っているのだ。

 先の中国メディアの報道によると、FOXCONNの製造部門に在籍していた元幹部職員は、「電子製品の生産工程で、産業用ロボットが人間の代わりを務めることができるのは、ごく一部だ。スマートフォンなど精密な製品の生産で、全工程をロボットに任せることはあり得ない」と指摘。「FOXCONNがスマートフォンの生産でロボットを使っているのは、前工程のはんだ付けと、後工程の組立、運搬程度だ。中間工程の大部分では、人の手が必要だ」との見方を示した。

 いずれにせよ、ロボットの導入が進めばその分、他のことをしなければならない人間が多少なりとも増えるのは確実。中国を舞台にした製造業で、農民工と変形金剛は、どのように折り合いをつけていくのか。とりあえずの答えは、郭氏の示した3年後に出るのかもしれない。