【対談】―― 島田順一 × 加藤幹之
プリンの味は食べてみなければ分からない
加藤 島田さんは、現役の外科医であると同時にヤンチャーズというLED照明関連のベンチャー企業の経営にも携わっています。医師とLED照明はなかなか結び付かないのですが。
島田 京都市立与謝の海病院で働いていたときに、研修の名目で1999年ごろから京都大学の工学部で医療機器関連の技術を研究していたんです。僕がいた部屋の衝立を挟んだ隣にLEDの研究チームがいました。そこの研究者たちとたまたま意気投合したのがキッカケです。
忘年会の席でLEDのことを初めて知りましてね。「これは医療に応用できるんじゃないですか」という話をしたら、そこからとんとん拍子に研究につながりました。
加藤 白色LEDがまだ、それほど市場に浸透していないころですね。
島田 そうです。当時、白色LEDが1個当たり500円もするというのを聞いてびっくりしたんですよ。ただ光るだけなのに、「これで牛丼が食べられるんですか」と妙に感心しまして。
加藤 それで興味を持ったというわけですか。
島田 白色LEDの研究チームと話をしているときに、白色LEDを手術の際に使う医療用のゴーグルに取り付けたら便利なのではないかと思ったんです。電球では難しいけれど、軽くて消費電力が小さく、明るいLEDなら手術室でも使えるのではないかとLED研究者の皆さんに話したら盛り上がった。
それで実際に試作したら、やはり使いやすい。2000年ころのことでしょうか。これは特許を出願すべきだという話になりまして、研究チームで特許を取ったんです。
だから、実は「医療工学の研究をしなければならない」という強い思いがあって、研究を始めたわけでないですね。本当にたまたまで、意図しないところに技術が飛び込んできた印象です。
初めての米国で拍手喝采
加藤 でも、やはり何か手術中に便利に使えるものがあったらいいという思いはあったわけでしょう。医療機器の研究に京都大学まで出向いていたわけですから。
島田 医師も完璧ではありませんから、手術でも失敗経験があるわけです。小さな腫瘍を切ろうと思って手術をしたら、腫瘍がどこにあるか分からない。画像では見えるのに、実際の術部を見ると様子が違っていたりすることがある。
そうした経験で、手術を支援してくれる便利な機器があれば、とても役立つという思いはあります。それで、工学部に行って電子工学の基本を教えてもらいながら、腫瘍の部位を手術中に特定する医療機器の研究に挑戦していました。
白色LEDを使ったゴーグルライトは開発後には、「米国で発表してみたら」と共同開発していた京都大学の藤田茂夫教授に提案されました。初めて渡米してサンノゼで開催された「Photonics West」という国際会議で発表したら、講演後は拍手がすごかった。実際にLEDゴーグルを使って手術をしたという話に「よくやった。よくぞ挑戦した」と。
加藤 研究者仲間と四方山話で盛り上がるというのはよくあると思いますが、それを実践に移すのはなかなかできることではありません。その好奇心は、どこから出てくるのですか。