技術経営 技術者が知っておきたい経営と市場の最新情報
 
中村 民明=tami情報教育研究所 代表
2011/08/11 00:00
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(1)はじめに

  人と人とのコミュニケーションでは、自分と同じではないものの見方、異なったものの感じ方に気付くことがあります。話をしていてもこちらの本意が伝わっていない、議論が噛み合っていない、関心を持つところが違っているなど、さまざまなことを感じます。それは、人にはそれぞれ自分の立場や役割があり、個々人それぞれに関心を持っている内容にも違いがあるからです。その人の立場やものの見方によって、関心のある事柄の重要度や優先順位も異なります。ものごとを見る立場のことを「視座」、ものごとを見る見方の要点、つまり目の付けどころを「視点」といいます。その視点から何を重要視し、大切にしたいのかを判断するための基軸、考え方の基準を「価値観」といいます。

 例えば、製造業で商品の企画・開発の業務を担当する技術者の場合、さまざまな人と接して仕事をすることが多いと思われます。具体的には、顧客の生の声として要求や要望、現状の問題点や課題をヒアリングし、分析します。営業部門や生産部門、サービス部門など社内の関連部門との調整も必要です。もちろん、設計メンバーとは詳細な議論をします。これらの利害関係者のすべての人たちが、それぞれ視座、視点、価値観を持っています。仕事の進め方の基本として、視座・視点・価値観の重要性を知った上で対応する場合と知らないで対応する場合、あるいはそれらを無視して対応する場合では、結果に大きな違いが出てきます。モノづくりの仕事にかかわらず、人との何らかのかかわりが大切である仕事の場合、自分や相手との関係性をより明確にするためには、視座や視点、価値観を把握することは極めて大切です。

 視座・視点・価値観の重要性を分かりやすくするために、ここでは“レストラン”という身近な「場」を例に取り上げて説明をします。どのような視座、視点、価値観があるのか、それらがどうかかわわるのかを説明し、「視座、視点、価値観」という考え方がどのようなものであるかを分かっていただきたいと思います。

(2)レストランにおける視座

 レストランには、まず「お客様」がいます。高級レストラン好みのお客様もいれば、ファミリーレストラン好みのお客様もいます。年配のお客様や若いお客様、遠くから来店するお客様、近隣から来店するお客様、初めて来店するお客様、常連のお客様と、実に多様なお客様が来店します。そして店側には「店員」や「店長」がいます。店員には「接客担当」や「厨房担当」や「仕入れ担当」などがいます。店長は「管理者」のみならず「経営者」を兼ねている場合もあるでしょう。さらに、食材や調理器材の仕入れ先、売上金を預ける金融機関、保健所や商店会ともかかわりを持ちます。このレストランという場における人々の役割や立場を、私たちは「視座」と言っています。すなわち、レストランにはお客様、店員(接客担当、厨房担当、仕入れ担当などの係)、店長(責任者や管理者や経営者)、それらを取り巻く多くの利害関係者という「視座」があり、相互にかかわり合っています。

(3)各視座の価値観

 これらの人たちは、同じ場で仕事をしていても、自分が大切だとか重要だとか思っていることがそれぞれ少しずつ異なります。例えば、お客様は一般的には店の雰囲気が良くて、料理が美味しく、価格も安いことを望んでいます。一方、店としてはサラリーマンの昼食時のレストランや家族で楽しむファミリーレストラン、あるいはビジネスや祝い事などで利用する高級レストランなどがあります。どのレストランを選択するかによって、店の雰囲気や料理の内容、味、価格へのこだわり、つまり何を重視しているのかが分かります。

 例えばファミリーレストランの場合、お客様は何を重視するでしょうか。料理の質よりも価格を優先させるでしょうか。それとも、雰囲気を重視するでしょうか。部屋は明るく、子供が多少大きな声を出しても周りに気遣いしなくてもいいということを重視するでしょうか。基本的には、小さな子供のいる家族が気兼ねなく行けることが重視されるのではないでしょうか。

 一方、高級レストランでは、おいしい料理、珍しい食材、腕の良い料理人、そして洗練されたな調度品や静かで落ち着いた高級な雰囲気を期待するでしょう。また、お客様がゆったりと談笑する時間を意識し、その場の状況に合わせて料理を出すタイミングの適切さ、大切なお客様への丁寧な配慮への期待もあるでしょう。こうしたサービスを付加価値とする仕事では、店員の接客態度の良しあしが、お客様の満足度に極めて大きな影響を与えます。お客様は雰囲気や内容だけではなく、店で働く人の関係性にも価値観を持っているのです。

 店側の接客担当は、お客様が満足してくれることで自分も満たされた気持ちになるでしょう。厨房担当は、料理の味に満足してくれることで喜びを感じるでしょう。店長は、お客様が満足し、継続的にひいきの顧客になってくれることを期待し、店員たちが喜んで仕事をしている姿を見ることにも喜びを感じるでしょう。そして、売り上げ目標が達成されることを望んでいるはずです。

 次に、店の従業員の視座で考えてみましょう。店員は少しでも多くの給料を得ることへの期待や、いずれ独立して店を持つために経営術を学びたいと考えていることでしょう。料理人は、おいしい料理や新しい料理を提供するために品質の良い食材を使いたいと考えるはずです。一方、店長は経営上の視点から適正なコストであることを重視することでしょう。

 つまり、お客様は「いい雰囲気で、おいしい料理を妥当な価格で食べる」ことに満足感を覚えます。「いい雰囲気」には、店員の接客術や店の調度・内装なども含まれますが、時と場所と目的によってそれらの優先度や内容は微妙に変わります。そして、店員は「自分たちのサービスによってお客様に満足していただき、結果、安定した給料を得ること」を望み、店長は「コストを抑えつつ、お客さんに満足していただき、売り上げを伸ばすこと」が重要と考えるでしょう。これらの満足感や達成感を重要と位置付けるなど、考え方の根底にあることを「価値観」と言っています。

 このように、価値観には「満足度」のように視座に関わらず共通な考え方もありますが、多くの場合は視座によって微妙に異なり、幅もあります。類似した立場の人においても、微妙な視座の違いによって価値観が対立することもあります。

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