企画に強い韓国、設計に強い日本

 それでは、いくつかの領域について詳細を解説しよう。ここから先は開発力調査の概要を理解していないとわかりにくいので、必要に応じて連載2回目の記事を参照してほしい。

 まず、企画領域に大きな差はないものの韓国が少しだけ上回っているように見える。実際にはこの企画領域は図3のように8つのプロセスで構成されていて、プロセスごとに「あなたはどうしましたか?」という実行状態と、「組織的なルールはありましたか?」という定義状態の二つの視点で評価している。まず明らかに言えることは企画領域のすべてのプロセスにおいて韓国のプロセス定義度が上回っているということだ。もともと日本ではこの企画領域の業務は人依存になっていることが多いが、韓国はこの企画領域もきちんとプロセス化しているようだ。逆に日本TOP20は顧客の声や市場不具合の収集と分析プロセスの実行度が韓国よりも高い。

 次に、構想から詳細設計領域になると、今度は日本がそれぞれの領域で上回っている。個別には、信頼性、安全性、組立性などの事前評価やばらつきの検討などの実行度が高い。定義度はほとんどの項目で韓国が高くなっているが、その差は企画領域ほどではない。評価・検証の領域でも日本が韓国を上回っていて、特に不具合管理の実行度は断トツで日本が高い。

図3
[画像のクリックで拡大表示]

 プロジェクト計画の領域は、再び韓国が日本を上回っている。これは開発期間や工数の見積もり、そして進捗管理のプロセスの差によるものだ。いずれも連載1回目に強化の必要性を説いた部分である。また、プロセス管理領域で韓国が優位性を示しているが、特にプロセス改善に差が表れている。定義されたプロセスをさらに改善する取り組みも組織的に行っている様子がうかがえる。

 そしてチームワークの領域も韓国が日本を上回っているが、これはスキル習得、設計ノウハウの再利用の差によるものだ。日本では技術伝承の問題を抱えている企業が多いといわれているが、韓国企業はこれに学んで知見の蓄えや技術者育成に組織的に取り組んでいる可能性がある

プロセス定義先行型の韓国

  ここまでで、どうやら日本は実行度が高く、韓国は定義度が高いということも特徴だということに気がつく。あらためて、領域ごとに実行度と定義度の差を比べてみた。図4のように、日本はすべての領域において実行度が定義度を大きく上回っており、韓国は多くの領域で定義度が実行度を上回っている。相変わらず人依存の日本と、プロセスを固めてきている韓国という構図が浮き彫りになったといえよう。日本が暗黙的に技術伝承をしてきたのに対して、韓国企業が様々な知見を日本など諸外国から短期間で学ぶ過程では、技術やプロセスの明文化が必然的であったことも背景にあるのかもしれない。

 むろん、プロセスが定義されていても実行されなければ意味がない。当座は日本のTOP20の方が優勢であると考えられなくもないが、そもそも韓国の実行度が決して低いわけではないということと、組織として開発力を高めるにはプロセス整備が不可欠ということを考えれば楽観することはできない。むしろ、グローバル市場でトップシェアを獲得している韓国企業が積極的に取り組んでいる製品開発のグローバル化のためには、定義度こそ重要と考えてよいだろう。仮に日本がこのまま変わらず、韓国の実行度が定義度に追いついたとしたら、もはや日本に勝ち目はない。

図4

技術者力は日本が優勢

 最後に、日韓の技術者力を比較した結果を紹介する。技術者力INDEXの26設問を5つのカテゴリーにわけて比較したのが図5である。青い実線が日本TOP20平均、青い点線が日本の全体平均、そして赤い実線が韓国平均となっているが、リーダーシップ以外のカテゴリーでは日本が韓国を上回っている。技術者力はまだまだ日本が優勢といえそうだ。ただし、リーダーシップに関しては韓国も負けてはいない。やはり日本でも韓国でもトップの企業には強いリーダーシップを持った技術者達が存在しているということであろう。

図5

 韓国側のサンプル数が少ないため完全な比較が難しい面はあるが、読者の皆さんの関心が高い韓国トップクラスの傾向を確認することはできたのではないだろうか。日本と韓国の製造業のどちらが強いかとなると、円高ウォン安という為替の問題や国策的企業統合などの影響の方が大きいという意見も出てくるが、為替にしても国策にしても一企業でコントロールできる話ではない。そのような外部環境の違いを嘆くよりも、ものづくりの原点に立ち返り、日本と韓国の違いを真摯に受け止めて、日本の強いところを伸ばし弱いところを底上げする企業努力を継続的にするべきである。

 次回は製品開発プロジェクトを成功に導くキープロセスが何かを紹介する。