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 宇宙ヨット「IKAROS」が太陽から受ける推進力は、ソーラーセイルの向きをどのように変化させても太陽から遠ざかる方向で受ける。この推進力だけを考えれば、太陽に近づくことはできない。

  ところが、太陽からの引力を考えれば話は変わってくる。IKAROSは太陽からの引力と公転による遠心力が釣り合う軌道上を移動している。つまり、移動速度を加速すれば遠心力が大きくなって太陽から遠ざかるように軌道が変化し、減速すれば逆に太陽へ近づくように軌道が変化するのだ。

 この加速と減速は、ソーラーセイルの向きを調整することで実現できる。つまり、太陽光が当たる表面が進行方向とは逆側を向いている場合には、太陽からソーラーセイルが受ける推進力がIKAROSを加速するように加わる〔図1(a)〕。逆に、太陽光が当たる表面が進行方向側を向いている場合には、推進力はIKAROSを減速させるように働く〔同(b)〕。

図1●軌道制御の原理。IKAROSが太陽の周りをある軌道で公転している場合には、そこでは太陽からの引力と遠心力が釣り合っている。太陽から見えるソーラーセイルの表面を進行方向と逆側に向ければ加速して太陽から遠ざかり(a) 、逆に、表面を進行方向と同じ側に向ければ減速されるために太陽に近づく(b)。(図:JAXAの資料を基に本誌が作成)
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 ただし、注意しなくてはならないのが、加速や減速によって軌道を変化させた場合、そのままでは太陽から遠ざかり続ける、または近づき続けてしまうということだ。ケプラーの法則によれば、公転軌道の半径(長半径)の3乗と公転周期の2乗は比例関係にある。これは、公転する物体の遠心力と太陽からの引力が釣り合う公転速度は、軌道の半径が小さい方が速いことを示している。このため、加速によって遠ざけた場合には減速、減速によって近づけた場合には加速することで目的の公転軌道に安定させることができる。

タイトル
図2●厚さ7.5μmの、アルミニウムを蒸着させたポリイミド製の膜面の一部(4分の1)。

 IKAROSのソーラーセイルは対角線が約20mの正方形に近い形状で、厚さ7.5μmのポリイミド製の膜を遠心力によって宇宙空間で広げる(図2、3)。円筒形の本体を自転させ、4個の重り(先端マス)および膜の質量で展開させる方法だ。表面には、ソーラーセイルの姿勢を制御するための液晶デバイスや各種センサなども搭載*2。ソーラーセイルの展開、加速・航行技術の実証、薄膜太陽電池による発電のほか、さまざまな工学/理学ミッションも行う計画である。

*2 液晶デバイスによる姿勢制御は実験として実施し、軌道変更のための姿勢制御には気液平衡スラスタを用いる。

図3●IKAROSのソーラーセイルは対角線が約20mの正方形で、遠心力によって広げられる。表面には太陽電池のほか、姿勢制御を行うための液晶デバイスや宇宙塵(じん)を計測するダストカウンタ、帯電計測パッチ、温度計なども搭載する。
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