渋谷の地下には二つの特徴がある。まず “混雑”していること。そして“高価”なことだ。
今回の工事区間には,二つの幹線下水道管をはじめ,現・東急東横線の高架橋やビルの基礎部分,さらに渋谷川の基礎部分が埋まっている。こうした既存の構造体に影響を与えないようにするためには,トンネルは細いほどいい。
さらに,「区分地上権」の問題もある。発注者である東京急行電鉄の所有地以外の所を地下鉄が通る場合,トンネルの投影面積に応じて「区分地上権」を設定し,土地所有者に対して面積分の補償金を支払わなければならない。トンネルの左右幅が少ないほど投影面積が小さくなって補償金が少なくて済むので,縦長の矩形が求められたのだ。
では,どうやってこの断面を実現するのか。タネ明かしをする前に,シールド機の構造を抑えておこう。
通常のシールド機は円筒形の機体の前面が円形のカッタ面板になっていて,面全体を使って地盤を掘削していく(図1)。掘り出された土は,シールド機の内部にあるスクリュコンベヤを使ってシールド機の後方に運び出す。シールド機の後部には,トンネルの外壁となる「セグメント」を組み立てる機構があり,シールド機が一定の距離を進むごとにセグメントを組み立て,トンネルの基本構造を完成させていく。
円形のカッタ面板の形状がそのまま断面になるので,断面形状は必然的に円形になる。ところが今回の工事では,全く異なったシールド機の構造を鹿島と川崎重工業が共同開発した。公転ドラム,揺動フレーム,小ぶりのカッタヘッドで構成するものだ(図2)*。
* 鹿島と川崎重工業は,円形や矩形のほか馬てい形などにも対応できる自由度の高さから,このシールド機を使った工法を,「アポロカッター(All Potential Rotary Cutter)工法」と呼んでいる。
縦長の矩形断面にするには,カッタヘッドを公転させ,その公転半径を伸縮させる(図3)。そのために3軸制御が必要になった。具体的には,公転ドラムに揺動フレームを介してカッタヘッドを取り付け,公転ドラムの回転に伴ってカッタヘッドを公転させる。この際,揺動フレームの揺動角度を調整して公転半径を変化させることができる。左右の壁面を削るときは揺動角度を小さくして公転半径を短くし,上下や対角線部分を削るときは逆に大きくして公転半径を長くする。こうやって,縦長の矩形断面が形成できるわけだ。
実はこのシールド機にはもう一つの特徴がある。カッタ部分が小さくて軽いので高速で回せるため,固い地盤でも効率よく掘削できることだ。渋谷の地下は地盤が固く,このシールド機にとって,格好の活躍の舞台となった。