多視済済!

 このリンク機構は,自動車のアクセルペダルおよびブレーキペダルの操作を手動で行うためのもの*1。足が不自由な人が運転するのを補助する装置である。既存の運転補助装置と決定的に異なるのは,ペダルに取り付けるだけですぐに使えること。従来は少なからず車体の改造が必要だった*2

*1 あい・あーる・けあ(本社東京)が企画し,今野製作所が開発・製造・販売する。「SWORD」という商品名で,2010年春に約20万円で発売する予定。
*2 手の動きをペダルへと伝えるリンク機構の支点を車体に固定しなければならないため。

 改造不要を実現するために考え出されたのが,このリンク機構だ(図1)。アクセルとブレーキの両ペダルに取り付けたリンク機構だけで,レバーを押すとブレーキがかかり,レバーを引くとアクセルペダルが沈み込む。このような動きをどう実現したのか─。ポイントはペダルの上死点を利用したことだ。

図1●レバーを引くとアクセルペダルが押し込まれ,レバーを押すとブレーキペダルが押し込まれる。
図1●レバーを引くとアクセルペダルが押し込まれ,レバーを押すとブレーキペダルが押し込まれる。

 いずれのペダルも,手前に引っ張っていくと,上死点で止まる。レバーを引くとブレーキペダルを引っ張る方向に力が加わるが,ブレーキペダルは通常の位置(上死点)でもう動かない。この状態では,ブレーキペダルに取り付けた部品(左側)の軸が支点となってリンク機構が動くことになる。つまり,レバーを引く力が,てこの原理でアクセルペダルを押す力へと変換されるわけだ。逆に,レバーを押す力はブレーキペダルを押す力へと変換される。

 レバーの動きは,飛行機の操縦桿のようにレバー先端に取り付けたグリップを前後に倒すことで実現する。運転者はシートの上,両脚の間にグリップを置くだけだ(図2)。改造を不要としたことで,ユーザーの利便性は大きく向上した。「従来は,足の不自由な人が運転できるように準備(改造)されたクルマしか使えなかった。他人のクルマやレンタカーの運転は健常者に任せるしかなかった」〔今野製作所(本社東京)〕。

図2●自動車へ取り付けた状態。グリップの先端を片手で押したり引いたりすることで,レバーを動かす。レバーはパイプ状の部品で,その中を貫通する棒とグリップの根元を軸で接続している。グリップの先端付近とレバーの側面はリンクで接続する。
図2●自動車へ取り付けた状態。グリップの先端を片手で押したり引いたりすることで,レバーを動かす。レバーはパイプ状の部品で,その中を貫通する棒とグリップの根元を軸で接続している。グリップの先端付近とレバーの側面はリンクで接続する。

 リンク機構の基本原理を考案した後も,安全性や使いやすさを高めるための開発に約2年もかかったという。小さく折り畳めることも考慮し,信号待ちや坂道での停車時などでブレーキをロックする機構も組み込んだ(図3)。20万回以上の繰り返し動作試験で耐久性も確認している。

図3●リンク機構を折り畳むことで,持ち運びやすい大きさにできる。
図3●リンク機構を折り畳むことで,持ち運びやすい大きさにできる。