多視済済!

 下の写真はクレハのラップ「Newクレラップ レギュラー」(30cm×20m)。この幅315×奥行き44×高さ44mmの箱に,これだけたくさんの機能が詰まっていたことをご存じだっただろうか。

[画像のクリックで拡大表示]

 初代のクレラップは1960年に発売。1989年には独自のカット方式を実現する「V字刃」を採用し,名前を今のNewクレラップに変更した。以来,その「New」を維持するために,新機能の追加や既存機能の改善に取り組み続けてきた。とりわけ,2004年以降は毎年,新機能を追加している。たかが梱包材と侮ることなかれ。商品を収納する脇役の箱でも,工夫次第で武器になる。

 その典型が,2008年に採用したプラスチック刃。従来は,同社も他社と同じように鋼製の金属刃を採用していた。金属刃は,何と言っても切れ味がいい。剛性が高く,ボール紙でできた箱を補強する意味でも,これ以上の素材はないと考えられてきた。そんな金属刃の撤廃に向けて,ラップの開発を担当する同社家庭用品企画・開発部のメンバーたちを突き動かしたのは,消費者たちから同社のお客様相談室に寄せられた数々の声。「ゴミの分別をするときに刃で手を切りそうになる」「子供が刃でけがをするのではないかと心配」といった切実なものだった。

  試行錯誤の日々は,素材選びから始まった。まずは分別の必要がない紙を試してみたが,強度不足で断念。次にプラスチックに着目し,ポリプロピレン(PP),ポリフェニレン・サルファイド(PPS),ポリスチレン(PS)…と十数種類を試した。中には「自動車部品に使うような高機能樹脂もあった」(同社家庭用品企画・開発部長の佐藤通浩氏)という。結局,従来と同じ切れ味や環境への配慮を求めてバイオプラスチックの一種であるポリ乳酸(PLA)に決まった。

  次に検討されたのが刃の形状だ。オリジナルのV字刃は,細長い刃の中心(山)部分をフィルムに突き刺して,まず穴を開け,そこから切り口を両サイドに広げるようにして一発で切り取る。 

 刃にはギザギザが刻まれているが,金属刃ではこのギザギザが均一に設計されていた。ところが,この形状をそのままプラスチック刃に採用しても,金属刃と同等の切れ味が得られない。問題は,最初にフィルムに穴を開ける中心部分に鋭さが足りないこと*1。試作品を造っては実際に切ってみる作業を続け,ようやく納得のいく刃に仕上がったのは,実に29型目のことだった。

*1 最終的には,刃の中心部分と両端部分の3カ所に鋭角なギザギザを刻む設計にした。中心部分だけでなく両端部分も鋭角な形状に変更したのは,消費者の中には刃の端からフィルムを破っていく人もいるため。

 苦労はしたものの,手にした「果実」も大きかった。「お客様相談室に寄せられるのは通常,クレームばかりだが,プラスチック刃を開発して初めて『ありがとう』というお手紙やお電話を頂いた」(佐藤氏)。こうして消費者の支持を得たNewクレラップは,2006年度に33.1%だったシェアを2008年度には36.5%に伸ばしている*2

*2 市場調査会社のインテージが実施する,全国3100店舗のPOSデータなどを集計した「SRI(全国小売店パネル調査)」に基づく。

 とはいえ,機能の追加にも限界があるのでは? 「そんなことはない。お客様に不満がある限り,我々のやるべきことは必ずある」(佐藤氏)。