多視済済!

  下の写真は,前ページのAを組み立て直したものだ。すると,Aでは見えなかった重要な要素が姿を現す。それは,ストッパと板ばねである。この役割を明らかにする前に,構造を説明しておこう。

今回のボディ分割タイプでは,ヘッドにある値以上の荷重がかかると板ばねがたわみ始め,送り出し/巻き取りコアの軸間距離が縮んでOリングが緩む。
今回のボディ分割タイプでは,ヘッドにある値以上の荷重がかかると板ばねがたわみ始め,送り出し/巻き取りコアの軸間距離が縮んでOリングが緩む。

  実は,Aの構造はBと違って,巻き取りコアを収めた「前ボディ」(ヘッドに近い部分)と,送り出しコアを取り付けた「後ろボディ」を分割し,両者をたった一つの結合部ではめ合わせている。これにより,前ボディは結合部を中心に回転できるようになっているのだ。

  この回転範囲を制限するのが二つのストッパで,回転しやすさを調整するのが板ばねである。板ばねの先端は,ストッパと同様に後ろボディに取り付けられた支点に当たっている。

  ヘッドに力が加わる(前ボディが結合部を中心に反時計回りに回転する)と,板ばねがたわんで巻き取りコアと送り出しコアの軸間距離が縮む。すると,Oリングが緩んでOリングと送り出しコアの間で発生する摩擦力が低下し,コアがスムーズに回転する。その結果,転写荷重が弱まるという仕組みだ。

  もっとも,この仕組みの威力は,最初から発揮されるわけではない。使っているうちにだんだんと引きが重くなり,ヘッドにある値以上の荷重がかかった時点で初めて機能する(上のグラフ)。

  この機構の要となるのが,繰り返しになるが,板ばねだ。前ボディと一体成形する都合上,複雑な形状にはできなかった。さらに,軽い力でたわんでしまうと,ユーザーが「引いている」と感じにくくなるため,たわみすぎないように長さと太さを調整した。併せて,ポリスチレンにエラストマ系の材料を加えることで,ばね定数も適正にした。

なぜ,引きが重くなるのか

 一般にOリング式の修正テープでは,使用中にテープがたるむのを防ぐために,送り出しコアがテープを出す量よりも巻き取りコアが巻き取る量を多く設定する。このため,その多い分をOリングと送り出しコアの間で滑らせる必要がある*a。コクヨS&Tの場合は,Oリングのテンションとコアの外径,軸間距離によって滑り量を設定している。

 しかし,使うにつれて送り出し側と巻き取り側の関係は変わる。送り出し側のテープ径(コア+未使用のテープ)が小さくなり,巻き取り側のテープ径(コア+セパレータ)が大きくなるのだ。

 すると,巻き取り側が1回転するごとに巻き取ろうとする長さが使いはじめより多くなるので,送り出し側でもより多くの滑りを発生させなければならない。これが,引きが重くなる理由だ。

*a Oリング式のほかに,送り出し側の回転をギアで巻き取り側に伝達する「ギア式」もある。ギア式の滑り機構については,一例を本誌2008年6月号の「機構に工夫を凝らした文具が続々」(pp.36-40)で紹介している。