前ページ左の装置を解体すると,ガスケットを取り付けた同じ形状のプレートが現れる(図1)。より正しく言えば,同じ大きさ・形でガスケットの配置だけが異なる2種類のプレート(A/B)が2枚1組になっている。プレートの材料は耐食性に優れたチタニウム合金で,厚さは0.4mmである*3。
*3 プレートの枚数を増減させることで容量を変える。容量にかかわらず同じプレートを使うので,容量の大きいタイプでも高さと奥行きは一定で,幅のみが変わる。
最大の特徴は,1組のプレートに蒸発と分離,凝縮の三つの機能を持たせた点だ。前ページに掲載したAlfa Laval社の従来の装置が,本体を2部屋に分けて下部に蒸発用のプレートを,上部に凝縮用のプレートを積層し,それらをカバーで覆っていたのに対し,新製品はカバーが不要。これにより,従来に比べて大幅な省スペース化が図れるのだ*4。その造水の仕組みを見てみよう(図2)。
*4 プレートの大きさだけで比較すると,従来製品の方が小さい。
流す水は,蒸留水のもととなる海水〔図2(i)の→〕と,舶用エンジンの排熱で温めた「ジャケット・ウオーター」(同→),冷却用の海水〔図2(ii)の→〕の3種類。それぞれ,流路1,2,3を通る。
ジャケット・ウオーターは流路2-aと2-bを循環するだけではなく,プレートA下部の,ガスケットで囲まれた領域に広がる*5。一方で,流路1を通る,蒸留水のもととなる海水は,プレートBの中にも流れ込む。そこは,プレートAにおいて80~90℃のジャケット・ウオーターにより一様に温められている領域に当たる。しかも,2枚のプレートで挟まれた空間を大気圧の85~95%に減圧しておくことで32℃の海水がここで蒸発し,水蒸気(同→)となってプレートBの中を上昇していくのだ〔図2(i)〕。
*5 正確には,プレートAとその左にあるプレートBで挟まれた空間になるが,ここでは便宜的にプレートAと表現する。プレートBに関しても同様。
プレートAの下部がジャケット・ウオーターで温められているのと全く同じ原理で,上部は流路3-aと3-bを循環する32℃の冷却水によって一様に冷やされている〔図2(ii)〕。当然,上下の間の領域には温度こう配が生じているため,プレートBを上昇してきた水蒸気がここを通過する段階で,凝縮し始める。この際,塩分をほぼ分離(塩分濃度の高い水を回収)することが可能になる〔図2(iii)〕。
こうして,塩分をほとんど含まない水蒸気がプレートBの上部に流れ込む。ここで凝縮する水の塩分濃度は2ppm以下。これを生活用水として,流路4から回収するのである〔図2(iv)〕。
1組のプレートに蒸発と分離,凝縮という三つの機能を持たせるために同社は,ガスケットの配置やプレート上に見られる凹凸(波形状)など細かい部分を作り込んだという。