TD-SCDMAの今後

 日本は、2Gから3Gへの世代交代を契機に、世界からの孤立を避けることを目指し、再び官民挙げて、グローバルコラボレーションの戦略へ転換した。NTTドコモはヨーロッパ陣営(ノキア、エリクソンなど)と組んでW-CDMAを立ち上げた。その後、いち早く3Gへの移行を進め、率先してサービスを開始した。現在、WCDMAは主流の3G国際標準となっている。

 世界中に普及されつつある3Gだが、早くも4Gへ移行する動きもある。中国モバイル社はこれを機に、TD-SCDMが孤立している状況を打開しようとしている。その武器は、TD-SCDMAの発展版と言えるTD-LTEである。

TD-LTEへの進化と移行

 TD-SCDMAの研究開発および商用推進をした結果、中国はモバイル技術の蓄積ができ、一部の領域においては世界の先端を走っているともいえる。TD-SCDMAの発展版でもあるTD-LTEの研究開発も進んだ。2010年のITU世界大会では、中国から提案されたTD-LTEが多くの支持により、4Gの国際標準の一つとなった。

 中国モバイル社は、TD-SCDMAで孤立した状況を繰り返さないように、TD-LTEに関しては、もう一つの候補であるFDD-LTEと導入時期を同期させることを目指している。加えて、膨大なマーケットを武器に、TD-LTEを採用することを積極的に宣伝することで、他国での利用促進も狙っている(Tech-On!の関連記事、「世界に広がるTD-LTE」参照)。

 中国モバイル社は既に今年、上海・杭州・南京・広州・深セン・厦門(アモイ)・北京の7都市で1000以上の基地局を建設し、TD-LTEの普及に向けたテストを行っている。2011年後半には、最高通信速度が3Gの10倍以上である100Mビット/秒のTD-LTEデータカードを発売して、ユーザーに体験してもらう計画もあるという。

 国内の商用テストだけに留まらない、今年2月、中国モバイル社は、インドBharti Airtel、ソフトバンクモバイル、米Clearwire、独E-Plus、ポーランドAero2と、TDDの推進団体「Global TD-LTE Initiative (GTI)」 の設立を発表した。中国が推進するTD-LTEが、世界で普及する兆しを見せ始めている。

 通信技術の国際標準においては、通信設備や端末も世界へ展開しやすいと思われているが、一方で他国や他社も参入しやすいので、「諸刃の剣」とも言える。WCDMAが3G国際標準の主流にはなったが、当初の期待に反して、日本の通信設備と携帯電話メーカーは世界に広がったWCDMA網を活かすことができず、海外へ展開できなかった。逆に、韓国と中国の携帯電話メーカーは、念願の日本市場に進出した。当初の狙いは正しかったが、世界へ展開できる標準化を策定するだけではなく、それを活かすための全体戦略と実力も必要である。LD-LTEの場合は、TD-SCDMAが立ち上がったときと違い、世界2位となった総合通信設備メーカー華為(Huawei)や世界携帯電話のトップ5に入った中興(ZTE)を擁する中国は、LD-LTEの普及を契機に、世界への展開を加速するのではと見られている。

アップルからの支持の獲得

 中国メーカーからの後押しだけではなく、携帯端末市場でもっとも強いアップルからの支持も狙っている。中国ではアップルが既に中国Unicom とiPhoneの販売契約を締結した。中国モバイル社は、当初アップルとも交渉したが、アップルはTD-SCDMAに対応しないため難航した。5月の関連報道によると、2社は交渉を継続している。具体的な時期は明言されていないが、アップルは今後主流になる可能性が高いTD-LTEを採用するiPhoneを発売する予定とのこと。アップルは世界最大規模の携帯電話契約者数を持つ中国モバイル社を無視できないと同時に、中国モバイル社もアップルの超人気端末iPhoneの力を借りたいと見られている。そうすれば間違いなく、TD-LTEの普及の追い風になるだろう。

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