製品開発のあるべき姿

 iTiD INDEXは商品企画や構想設計、プロジェクト計画やプロジェクト管理など10の領域にわかれている。それぞれの領域はさらに小項目に分割されていて、全部で60ほどの指標が用意されている。指標のいくつかを図4に紹介する。内容を見て、「そのプロセスは、そこまでするの?」と思う人もいるかもしれないが、これは製品開発のあるべき姿を表しているからに他ならない。

図3
図3

 余談ではあるが、製品開発のあるべき姿を表しているがゆえに、2010年度の調査参加者の感想として、「記述されているプロセスを次の製品開発の参考にしたい」や「自社のプロセスでは不十分なことがわかった」という声が多かった。しかもそれらは活気や勢いがある企業の技術者のものであった。ところが、逆にあまり元気がなさそうな企業からの参加者の声は、「設問が多すぎる」や「意味がわからない」というものが多かった。技術者の意識レベルの高さと会社の業績の関係性を垣間見た気がする。

図4
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二つの視点

 指標の話に戻るが、iTiD INDEXではひとつの指標に対して「あなたはどうしましたか?」というプロセスの実行状態と「そもそも組織的なルールはありましたか?」というプロセスの定義状態の二つの視点で問いかけていることが特徴的だ。これにより大きく次のようなことがわかる。

  • 組織的なプロセス:十分にプロセスが定義されており、かつ実行もされている
  • 人依存のプロセス:プロセスは実行されているが、定義が十分ではない
  • 形骸化しているプロセス:プロセスは十分に定義されているが、実行されていない
  • 混乱しているプロセス:プロセスは定義されていなく、実行もされていない
図5
図5

 参考までに、横軸を実行状態、縦軸を定義状態として2007年度と2010年度の調査結果を比較すると図5のようになった。本来は約60の指標ごとにプロットして、個別の状態を見るものだが、今回は全指標の平均値をプロットしてみた。これを見ると日本の製品開発は全般的にまだまだ人依存で行われていることがわかる。ただ、若干ではあるが組織的な方向へ向かっていることも伺える。“開発のグローバル化”という声が昨今よく聞かれるが、あうんの呼吸が期待できない海外拠点との連携を強化するために、業務の標準化を推し進めている企業が増えていることの証しではないだろうか。

行動特性の見える化

図6
図6

 次に、技術者力INDEXについて簡単に紹介したい。

 技術者力INDEXは大きく5つの領域に分けられている。iTiD INDEXと同様、それぞれの領域はさらに小項目に分けられていて、「価値ある製品・サービスを創出する事へこだわりを持っていますか?」や「周囲に対して自分の考え・思いを発信し、協力を得ることができていますか?」など、全部で26の指標が用意されている。技術者力INDEXは、技術者の技能的なスキルを見るものでも、従業員満足度を調査するものでもない。図7を見てもらいたい。これはiTiDが人の能力を氷山に例えたものである。一般に人の能力は、研修を何回受けたかとか、部品を何分で組み立てられるかなど、「知識」と「技量」といった表層に見える評価しやすい力で判断されがちだ。しかし、成果を最大限に引き出すために必要なのは、根源的・本質的な力である「行動特性」や「思想・理念」であると考えている。研修や講義などでうわべだけの教育を実施しても業務成果に結びつかないのは、この行動特性に踏み込んでいないからだ。技術者力INDEXは、この「行動特性」を測る指標として開発された。実は、この技術者力INDEXは2007年度の全国調査時点では存在しなかった。連載第1回でも述べた通り、リーマンショックを機に人材への投資が重要であることを再認識した多くの企業からのニーズにより開発された。

図7
図7

 今回は開発力調査の概要だけを説明した(詳細はこちら)次回は2010年度開発力調査の詳細な結果や、プロジェクトの開発期間および開発者数の平均など各種数値データをお伝えする。