環境に適応させてDNAは複製されるべき

 とは言え、相手の市場に合わせる努力も必要です。クルマならハンドルを左につけることや、相手国の排ガス規制に合わせるなどは最低限求められるでしょう。もう少しきめ細やかに、道路事情に合わせた乗り心地や国民性に合わせたインテリアデザインなども考えていく必要もあるでしょう。その国の人に合わせようとすればするほど、日本で受け入れられた製品とは違ってくる可能性も高まります。このカスタマイズを一つひとつやっていたのでは時間がいくらあっても足りません。どの部分をプラットフォームとしてキープし、どこはカスタマイズするのかを見極める重要性が問われます。既にプラットフォームを決めている、ということもあるかもしれません。その場合でも、顧客視点でプラットフォーム化ができているか、再度見直してみてはどうでしょうか。これまでの枠にとらわれ、目の肥えた人が決めたプラットフォームになっている傾向にあります。あるいは、プラットフォームとオプションのつながりが整理されておらず、開発効率が改善されないかもしれません。市場に合わせたオプションづくりを充実させるには、インターフェースを使いやすく、使われやすい状態にしておくことが必要です。

 iROBOTは軍需という極端な環境でロボット技術を育てました。そのプラットフォームを家庭用に転用して成功しています。

 プラットフォーム普及力=技術に対する自信×応用力 

 という数式に照らし合わせて自社の力を測ってみてはどうでしょうか。技術に対する自信は低下しているか、応用しようとしているか。自信がなくて応用させていないケースや、ハナから応用しようとしていないケース、どちらもあるでしょう。先日、ノーベル化学賞を取得した田中耕一さんの講演会で、最近の日本人の典型的な症状は「できないと思っている」または「これまでやってきたことの呪縛にはまっている」だと仰っていました。まったくその通りだと思います。自信のある技術があるのなら、それをどんどん活用していくべきです。

技術者一人ひとりが強くなる

 この連載を通じて、プラットフォーム化によるQCDや海外展開など経営面のメリットを述べてきました。ですが、単に経営状態だけが改善されるわけではありません。製品をプラットフォーム化することにより、2つの意味で技術者一人ひとりも強くなると考えています。

  • 顧客志向を高め、環境に適用しやすい体質に
    • プラットフォーム部分の小さな改良や改善から技術者を開放させることで、特徴のあるオプションの開発に集中することができます。オプション部分に集中するということは、顧客志向になります。さらに、オプション部分に絞ることで、新しい市場を攻略する際にありがちなトライアンドエラーを許容することができます。
  • 視野を広げ、システム思考に
    • 従来は一つの製品内の特定部品のことだけを考えていれば済んだのが、複数の製品構造やインターフェースを同時に検討することが求められます。これにより、システム思考が身につきます。複数の製品に対する複雑な影響を整理しながら把握できる能力は今後の技術者にとって重要度が増してきます。

最後に

 プラットフォーム化に関してこれまでいろいろと述べてきましたが、一言で言うとプラットフォーム化は製品の中核となる技術を見つける旅です。その旅の第一歩は、市場から何が共通して求められているのかを把握することです。中核となる部分から余計なものをそぎ落とし、小回りが利く状態にします。次に、プラットフォームを利活用しやすい状態にするために、インターフェースを整えます。整理されていないまま、強制的なプラットフォームは、効率も上がらず、ニーズに合わない製品になるだけでなく、現場の活力を奪います。そして最後に、中核部分がロバストであり利活用に値することをチームで合意していくプロセスが不可欠です。合意がなくては、プラットフォームができた背景や根拠に対する誤解が生じ、組織の力が高まりません。

 さて、これまで16回の連載にお付き合いいただき、感謝致します。多くの方々からの反応はコンサルティングでは得られないような新鮮な経験となりました。

 それから、読者の皆様には私の夢を共有して頂けたら幸いです。まず、プラットフォームという足場を固め、さらに自信を持って世界中に製品を発信すること。きっと世界中の大人が買うでしょう。また時に、小さな改良から自らを解放し、真に革新的なものづくりを通じて子どもたちに夢を与えること。きっと、その夢も叶います。

※ 本連載に関連するプロセス改革施策にご興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。