FPD業界に身をおく筆者は,半導体材料やTFT技術に大いに関心を持っている。特にここ数年の透明アモルファス酸化物半導体材料(TAOS:transparent amorphous oxide semiconductors)とそのTFT技術の進展には目を見張るものがある。ディスプレイ関連で最大の学会「SID(Society for Information Display)」の国際シンポジウムや「IDW(International Display Workshops)」のようなディスプレイ技術に関する国際学会講演会にも、酸化物半導体TFT(Oxide TFT)のセッションが設けられている。

 酸化物半導体とそのTFT技術に対する筆者の見解は、本コラムの記事「ほとんど変わらずでは、変わらない!」で述べたように、現在でもSi系TFTを置き換えるだけの積極的な理由を見いだせずにいる。

 これに対し、シャープは『酸化物半導体を採用した中小型パネルを世界で初めて実用化』(2011年4月21日付ニュース・リリース)と題して「新材料である酸化物半導体(IGZO)を用いた薄膜トランジスタを、株式会社 半導体エネルギー研究所と共同で開発し、世界で初めて実用化いたします」と発表した。続いて6月3日に開催されたシャープの「2011年度の経営方針説明会」の資料によれば、亀山第2工場にIGZO TFT技術を導入して、まずは高精細・高画質、超低消費電力のタブレット端末向けの液晶ディスプレイの生産を始めるとのことである。

これだけの発表数は前代未聞の出来事

 SIDのシンポジウムやIDWに参加し、発表を聴講すると、半導体エネルギー研究所(以降、SELと表記)からの発表の多さが印象に残る。2008年12月に開催された「IDW '08」以降、3つの国際学会講演会に発表されたSELからの発表論文とキーワードを表にまとめた。

学会講演会に見る半導体エネルギー研究所の「酸化物半導体とTFT技術」
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 この表にまとめた以外にも、「AM-FPD '09」で3件、「IDW '09」では1件(招待講演)の発表があった。このように3つの国際学会講演会だけでも、この3年間弱に、なんと37件もの論文が発表されているのである。

 一方、Si関連については、アモルファスSi(a-Si)関連の技術発表は、学会講演会ではほとんど無かったと記憶している。また、低温多結晶Si(LTPS)技術に関しても、シャープが中小型液晶ディスプレイに採用しているSEL開発の「CG(Continuous Grain)シリコン」技術が「AM-LCD '98」「SID 2000」「SID 2002」のシンポジウムなどで発表があったが、総数は多分10件に満たなかっただろう。

 要は、SELはかつて半導体材料やそれを使ったTFT技術に関して、SEL単独でこれだけの論文を発表したことが無い、酸化物半導体関連の発表数の多さは前代未聞の出来事なのである。

SID 2011での発表論文から推察される、酸化物半導体とTFTの特許とは?

 2008年以降にSELが発表した、酸化物半導体とTFT技術の変遷を簡単に見てみよう。「SID 2009」での印象に残る論文は、論文番号21.3である。IGZO TFTのしきい値制御に関する技術であり、以降の論文に引用されているTFT特性の原点はこの論文にあると確信している。In-Ga-Zn-Oxide TFTの電気的特性をn型の“ノーマリー・オフ”に制御するというものである。

 SID 2010では、ノーマリー・オフ型でオフ電流の小さいIGZO TFTを使ったディスプレイの発表が7件中5件を占める。キーワードは低消費電力ディスプレイの提案で、例えばCsレス(蓄積容量無し)のTFT液晶ディスプレイ技術の発表もその一つである。