VCD(Video Compact Diskの略称)ディスクとプレーヤーといっても、日本では馴染まない人が多いかもしれない。ところが中国では、DVDやBlu-ray(ブルーレイ)よりもメジャーな存在である。実は、DVDが日本などの先進国で発売される前に、VCDは既に中国で大流行になったのである。そのため、中国は日本より先にアナログのVHS時代からデジタルビデオ時代に入った。VCDが中国でかなり普及したので、その後のDVDプレーヤーはVCDにも対応できるのが必須の機能となった。今でも、パッケージ・コンテンツを販売する店のほとんどがVCDコーナーを設けている。AV製品は、日本家電メーカーのお家芸であるはずなのに、どうして中国では中国発のデジタルAV製品が大流行したのだろうか。

中国発のVCD商品化の誕生

 VCDとは、映画などのデジタル動画コンテンツをMPEG-1フォーマットで圧縮して記録するための規格。VCDディスクには、1時間程度の動画、および音楽の記録が可能。それをMPEG-1対応のVCDプレーヤー機などで再生する。画質はVHSレベルで、MPEG-2を使うDVDより劣る。

 テレビの普及は家庭においての再生・録画機器のニーズを生み出した。90年代初め、世界的にみれば、先進国においてはVHSビデオレコーダが相当普及していた。画質がVHSと同じレベルのVCDには、商品化の価値がないと見るのが一般的。このため、高い画質を持つDVDの開発が盛んだった。しかし1993年頃、中国都市部のカラーテレビの普及率は80%近くだったものの、VHSビデオレコーダはまだ値段が高かったので、普及には至っていなかった。こういった中国のマーケットをよく理解する中国企業が、VCDのビジネス価値を見つけ、そして商業化の機会をもたらしたのだ。

 92年のことだった。中国の関連記事によると、中国安徽省に位置するデジタルテレビの研究と開発を手掛けるある民営ベンチャー研究所の所長が、アメリカで年に一度開催される世界放送展示会に参加した。そこで、アメリカのあるベンチャー企業が展示していた、MPEGのデジタル・エンコードとデコードの技術に惹かれた。この技術を使用すれば、ビデオとオーディオを一枚の光ディスクに蓄積できるので、新たな製品が生まれると感じたのだ。

 その後、2社は商談を行い、デジタル視聴機器の開発に合意、共同投資でVCDの開発・生産を目的とする会社「万燕」を設立した。アメリカのベンチャーから開発されたチップをベースとして、VCDプレーヤーのプロトタイプの開発に着手した。もちろん、チップだけではVCDは作れないので、万燕は当時のある大手電機メーカーから、プロトコルがオープンされたCDプレーヤーのメカを購入し、それをベースに、VCD用のメカを開発した。さらにはVHSビデオレコーダーの基本操作機能を含めて多くの機能を開発し、VCDのプロトタイプを完成させた。

 コンテンツがなければVCDプレーヤーは売れない。そこで100タイトルのコンテンツを購入し、自分で開発したコンテンツ圧縮編集機器で映画やドラマなどを圧縮、CD工場でVCDディスクを作った。そして1993年9月、万燕は北京国際放送展示会においてVCDプレーヤーを展示し、来場者の注目を集めた。早くも10月から量産が開始され、市場で大ヒット。その後、中国の多くのメーカーがVCD分野に参入し、さらには海外の電機メーカーもこの市場に参入した。DVDプレーヤーが中国で発売されるまでに、中国市場のプレーヤー市場はVCD一色だった。その時のVCDディスクを、いまだに多くの家庭が持っている。このため今でも、新しいタイトルが続々発行されているのだ。

上海のある量販店で今年撮影したパッケージ・コンテンツの販売コーナー。前に並んでいるのはVCD、後ろにあるのはBlu-ray(中国語:藍光)。現在、中国市場では、主にHDの映画コンテンツはBlu-ray、SDの映画とドラマはDVD、教育とアニメはVCDとすみわけられている。価格は後者が一番安い。

どうして中国発が可能になったのか