認知のカベ

 「技術力のカベ」、「マッチングのカベ」を乗り越えたら、次に乗り越えないといけないカベは「認知のカベ」です。いくら優秀な製品でも、そしてそれが人びとのニーズに合ったものでも、それを人びとが知らない限り売れることはありません。

 その代表ともいえるものが、マーケティングです。マーケティングは、売る仕組みと言い換えてもよいと思います。マーケティングは非常に重要なビジネスのファクターですが、それ自体では価値を生み出しません。付加価値そのものを生み出すのはドラッカーのいうイノベーションであり、その価値を市場の消費者に伝える仕組みを生み出すのがマーケティングといえるでしょう。

 以前、ある日本のベンチャー企業のアメリカ人社長がこういったことを覚えています。「技術はマーケティングを最新にする手段である」。この言葉はとても印象的でした。

 技術だけに頼ると、「よいものは売れる」という罠にはまってしまいます。マーケティングは重要であり、ビジネスそのものを左右します。

 さて、今まで述べてきた「コツコツ力のカベ」、「マッチングのカベ」、「認知のカベ」の3つのカベは、従来のビジネスで最も重要視され、これらを乗り越えるために様々な手法が生み出されてきました。技術力を磨き、市場の要望に合わせて商品を開発し、強力なマーケティングを行って成長してきたのです。

 これまでのビジネス上の戦略が当たっていたから成長してきました。逆に、つまり成長してきたという事実は、それまでの戦略が当たっていたからといえるでしょう。

 しかし、バブル崩壊後、新興国の台頭により、この従来の手法が以前ほどうまく機能しなくなっています。もちろん世の中の変化に合わせて企業は努力していますが、成長の鈍化がそれを物語っています。

 それでも今まで採られてきたビジネスモデルで企業はなんとか生き残ろうとしています。人は自分自信が経験してきた成功体験に大きく影響されるので、簡単にそれまでの路線を変更できないのです。

 部品や素材、製造設備などのB2Bビジネス企業は、その技術力をますます高めようと躍起です。