加藤 篠田さんは、富士通では伝説です。その人物が、もう一度、ゼロからのスタートで成功しなければならないと考えているのですね。

篠田 「ともかく、やってみろ」ですよ。挑戦するときに、いろいろなことを知り過ぎていると逆にうまくいきませんよね。

 一応、大企業の中で小さいけれどもいろいろな組織を作った経験がありました。それがあったので、組織を作ると前進するという感覚はあります。それでも、ビジネスの現実は甘くないとは感じていますが。

加藤 今までの技術開発で、一番うれしかったことは、どんなことですか。

篠田 たくさんありすぎて、選べませんね。開発した技術を見て、お客さんが喜んでくれるのを見ることかな。最近では、シプラを明石市立天文科学館に製品を納入したときに、保育園の園児が20人くらい見学に来てね。「うわー大きい」「曲がっとー」「きれー」と言ってくれて。あれを聞いたら、たまらないですよ。技術者冥利に尽きます。

PDPとは、アプローチが違う

2011年4月に兵庫県立美術館に導入された篠田プラズマの製品
[画像のクリックで拡大表示]

加藤 今後の事業は、どのように進めていきますか。

篠田 これまでは、開発者である自分がすべてを掌握していないと、うまくいかない時期だったと思います。途中で「こんな技術を開発したので、皆さんどうぞ」という方針で事業を進めると、ぐちゃぐちゃになってしまう可能性があるから。

 今年と来年は、仲間を作る時期だと思います。開発した技術を実用化する市場導入期から市場普及期にしなければならないと考えています。この間にコスト低減や、効率的な量産技術を確立する必要がある。デバイスの可能性を引き出すために、仲間づくりが大切になってくるでしょう。

 PDPはモノクロをカラーにしたいという技術者としての興味がたまたまものになった。でも、今回はアプローチが違います。こんな社会を作りたいという発想からスタートしています。

 PDPは家庭の映像文化を変えたと自負していますが、篠田プラズマがやるべきことは、室内の壁に価値を持たせることです。今回のデバイスも新しい文化をつくる可能性を秘めている。僕は開発した技術を「彼」と呼ぶんだけど、彼(PTA技術)にはPDPや液晶パネルを超えるポテンシャルがあると信じています。

加藤 文化を変えるには、さらなるコスト低減が大切ですね。

篠田 そのイメージは、もうできています。今のPDPと比較して製造工程が半分以下で済み、駆動回路などはPDPと同じなので、ある程度の量産ができれば量産効果でグッとコストを下げられるはずです。市場拡大に向けて、今年と来年は正念場だと思っています。

(この項、終わり)