私は、人類をここまで進歩させた原動力が「発見の喜び」にあると思っている。誰も知らない何かを見つける喜びがあるからこそ、技術者や研究者は日々地道な研究を続けられるのだろう。

 その発見が世の中で認められ、新しい製品やサービスとして多くの人々の身近な存在になることで、次代の研究を続けるエネルギーが蓄積される。技術革新がイノベーションを生み、イノベーションがさらなる技術革新につながる。このスパイラルが、有史以来の技術の発展の礎になってきた。

 前回から紹介している篠田プラズマの会長兼社長を務める篠田傳(しのだ・つたえ)氏がPDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)の研究開発で残してきた足跡は、まさにこのスパイラルそのものだ。そして、PDPの大市場を生み出した篠田氏は、さらに次の旋風を巻き起こすべく技術開発の挑戦を続けている。

 古巣である富士通がPDP事業からの撤退を決めた2005年に、篠田氏は篠田プラズマを設立した。中核となる技術は、プラズマ技術を応用したPTA(プラズマ・チューブ・アレイ)である。篠田プラズマは、この技術を応用した「SHiPLA(シプラ)」と呼ぶ大画面ディスプレイを開発する企業だ。

「超大型」「超軽量」を実現

直径1mmのガラス管を並べる
PTA技術の表示部に使うガラス管を並べたアレイ。この技術で「超大型」「超軽量」「省電力」なディスプレイを実現する
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 技術はシンプルである。長さ1mで直径が1mm以下という極めて細いガラス管内に蛍光体を入れ、それをアレイ状に横に並べ、電極の並ぶフィルムを使って裏表の両面で張り合わせる。結果として、1m四方で厚さが1mm以下の極めて薄いパネルが形成される。このパネルを接続することによって、2m×3mの基本サイズのディスプレイが完成する。3原色の蛍光体を順序良く並べることで、極めて薄くて軽いカラー・ディスプレイを実現できるという仕組みだ。

 シプラの特徴は、何と言っても「超大型」「超軽量」「省電力」である。例えば、1m×1mのモジュールの重さは1.2kg。消費電力は最大で200Wと、同程度のサイズのPDPに比べて1/3ほどだ。画素の密度はPDPに及ばないが、極細のガラス管を並べただけの構造なので曲げることができる。この特徴を生かせば、曲面を持つ壁や、円柱状の柱などに貼り付けることも可能だ。

 軽いので、輸送や屋内への搬入も容易。一般に2m×3mというサイズの巨大なディスプレイを建物に搬入するには、大きな通路や入口が必要になるが、シプラでは通常の搬入路でも運びやすい。現在、屋外の大画面表示で主流のLEDを使った大型ディスプレイに比べても、優位な点は多い。

 実は、篠田氏がこの技術の構想を練り始めたのは、まだPDPテレビが普及する前の1997年頃のことだ。富士通の川崎事業所での単身赴任生活を終え、久しぶりに兵庫県明石市にある同社の研究所に戻った時期である。

 PDPのカラー化という技術革新を成し遂げた篠田氏には、研究者仲間から「後進の育成を」という声もあったそうだが、根っからの技術者にそれだけを求めるのは酷というものだ。もちろん、篠田氏は新しい研究テーマを探していた。