菅直人首相の要請を受け、中部電力が浜岡原子力発電所にあるすべての原子炉を停止した。これにより今夏の電力需要のピーク時には、東京電力・東北電力管内のみならず中部電力管内でも電力需給が逼迫する可能性が高くなった。さらに、東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、地域住民の不安が高まっていることから、定期点検中の原子力発電所の再稼働が難しくなっている。日本は慢性的な電力不足状態となる恐れが出てきた。

 東日本大震災がもたらしたこうした「電力喪失」の事態は、日本のエネルギー政策や供給体制、電力会社の経営形態など広範囲な分野で根本的な変更を迫っている。その一つは、これまで日本では電力供給が磐石だったことから問題視されてこなかった需要サイドの抑制システムの確立が、日本でも不可欠になったことである。

「計画停電」をいかに避けるか

 需要サイドの抑制そのものは、「計画停電」という形で唐突かつ乱暴な形でやってきた。東京電力および東北電力管内で2011年3月に実施された計画停電は、変電所単位で電力供給を止めたため、信号機や病院など社会生活上不可欠な施設まで停電し、混乱を招いた。

 東京電力や東北電力は今後計画停電は原則実施しない方針を打ち出したが、問題は今夏に予想されるピーク需要時の対策だ。政府はそのために、企業などの大口需要家だけでなく、家庭部門にも抑制目標を設定した。当初、大口需要家(500kW以上)を25%、小口需要家(500kW以下)を20%、家庭部門を15~20%としていたが、4月末に一律15%の抑制目標とすることとした。

 大口需要家などについては、需給調整契約などの形で、需要抑制策はある程度機能するが、家庭部門は各戸に直接働きかける手段はなく、節電協力を呼びかけることしかできない。そうした「啓発」だけで果たして15%の抑制ができるのか、不透明である。

 そもそも、家庭の居住者にとっては自らの電力の使用状況についての定量データを把握しておらず、電力会社の需給状況に照らしてどのタイミングでどの程度電力を抑制すればよいかが分らないことが問題である。少なくとも、電力会社各社は消費者が省エネ行動をとりやすいように需要ピークに関する詳細なデータを分りやすい形で公開すべきだ。そのうえで、中長期的には、スマートメーターなど自らの消費電力量を見える化するシステムを構築するシナリオを描くことが重要であろう。