ロイロの最初の「ロ」は「蝋(ろう)」である。漢字で書くと、「蝋色」(ろいろ、または、ろういろ)。漆塗りの技法に、上塗りした漆が乾いた後に研磨することで光沢を出す「蝋色塗(ろいろぬり)」がある。この光沢を含んだ漆の色が蝋色だ。透明で柔らかい、日本の伝統的な美の色である。

ロイロの映像編集ソフトウエア「スーパーロイロスコープ」
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 欧米で漆器を「Japan(ジャパン)」と呼んだ時代があった。それにあやかり、「日本を代表するような会社にしたい」というのが杉山兄弟の創業の思いである。

 「ソフトウエアは目に見えない透明なもの。ソフトウエアのビジネスは、多くの人が使う基盤技術にならなければ成功しない。空気のようなプラットフォームを作りたいとの思いから、蝋色を思いついたんです」と浩二氏は話す。

 兄の竜太郎氏は、やや小柄で精悍なタイプ。弟の浩二氏は少し大柄で穏やかな風貌である。そんな二人を見ながら、取材前から気になっていたもう一つの疑問をストレートに聞いてみた。

 「なぜ、お兄さんがCOOで、弟さんがCEOなんですか?」

 「僕の方が兄よりもしっかりしていたということでしょう」と弟は笑う。「いろいろなケースを聞くと、弟が社長の会社の方がうまくいっている例が多いようなんですよ」

 「最大の理由は、営業などで客先を訪問している兄が社長だと、お断りすべき様な案件も断れなくなってしまう可能性があることです。あまり外に出ない技術担当の僕の方が社長には適切だと思います」

二人でひとりの人間のようなものです

 ただ、二人にとっては、どちらが社長かということは、あまり意味がないことのようである。

 「二人のタイプは180度違っています。互いに補い合う関係が築けている。大きく見て、二人でひとりの人間のようなものです」という答えが、浩二氏から続いて出てきた。

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 「兄弟での経営は、大きな強み。絶対的な信頼関係がありますからね。どんなに激しい議論をしても、絶対切れない最終ラインがある」

 会社経営にとって、一方では情熱や情緒的な人間関係が極めて重要であるが、他方で客観的な分析や冷静な決断が必要なことが多い。こうした多面的な資質を、兄弟の絶対的な信頼関係の中で協力して持ち合わせることは、恐らく今後も大きな資産の一つになっていくだろう。

 兄弟二人が互いの持ち味を生かしながら活動してきたのは、実はロイロを設立する前からである。それぞれが違った強みを持ちながら、別々の仕事に就いていた。その一方で、二人はずっと共通項を持ち続けてきた。それが自然に結晶したのがロイロという企業だ。

 では、二人の兄弟は、なぜ起業に至ったのか。たどってきた軌跡を聞き始めた私は「なるほど」とひざを打った。

(次のページは、杉山兄弟に聞く「技術者と経営者の違い」)