システム図はできあがった。今回開発するすべての青図になっている。各設計部門や企画部門とも合意をとることができた。

 詳細設計に入る前の最後の仕事はロバスト性の検証になる。システム図に描いたプラットフォームとオプション間のインターフェースをつぶさに確認していった。すると、それまで気づかないモレや想定の甘さが発見されたのだ。もちろん、これらは直しながら検討を行った。

 順調に検討は進んだが、市場情報がなく、仮決めしかできないインターフェースがあったことで、チームは落胆した。目標だった3年ロバストな解などなかったのもかもしれない。営業にも問い合わせたり、情報を集めたりしたが、あまり手がかりにならなかった。ちょうどあきらめかけた時、それまで一番おとなしかった若手のエンジニアの発言が雰囲気を変えた。

「ロバスト性の検証をして限界が見えただけでも、大きな成果だと思います。」

 当初目標とした期間を十分に満足するようなプラットフォームの設計解がないことも現実にはあります。しかし、検証することで、どれだけの耐久性があり、どんな変化に弱いのかが明確になります。少なくとも2年使えるプラットフォームなら、その2年の間、計画的な技術開発ができるようになります。逆に、毎年毎年あわてて市場に合わせていたのでは、開発者も疲弊してしまうでしょう。

 プラットフォームの輪郭が明確になったので、詳細設計に着手できる。明確なインターフェースがあるため、製品レベルで評価しなくても完成度がわかるのは新鮮だ。気分的には製品レベルの評価を待たずして、OKを出すのは気が引けるが、インターフェースを信じよう。チームもこれを信じているようだ。なぜなら、これまであまり測定したことのない通信ノイズや、内部基板の耐衝撃性なども、自主的に評価方法を工夫しながら確認しているからだ。

 インターフェースを明確に決めるということは、それまでアバウトに捉えていた技術に厳密さを求めると言うことになります。もちろん、あまり重要でないところに厳密さを求めすぎると非効率を生みます。しかし、プラットフォームとオプションの間は製品の中でも最も重要なところです。こういう重要なインターフェースの測定ができるのとできないのとでは、万が一不具合が出た時でも原因追究に役立ちます。

 プラットフォームとオプションの開発を終え、いよいよ製品化だ。同時に3製品をリリースするという快挙を成し遂げることができるのかの最終テスト。一部の不良がはっけんされるというヒヤリもあったが、見事にパスすることができた。実はこのヒヤリもプラットフォーム化のお陰ですぐに解決したのだった。部品の仕様が従来よりも厳密に定義されていたため、部品メーカー側の不備がすぐに特定できたのだ。見事に3製品同時リリースを成し遂げたチームは打ち上げ会場ですでに次のプラットフォーム構想に花を咲かせていた。

 プラットフォーム化は単に製品の魅力を高め、製品QCDを改善するための手法ではありません。市場全体を捉え、複数製品を視野に入れた開発を行うことで、組織全体の技術力を高めることできます。社内で注力すべき点、部品メーカーや外部にに任せるべき点はどこなのか、はっきりと見えてくるはずです。グローバルに成功している多くの企業は、各国に合わせた製品づくりは現地化を進める一方で、プラットフォームなど中核の技術開発は本国で集中して行っています。プラットフォーム化によって技術の流出が防げるのは、隠すべき大事な部分が見えるからです。

 このようにプラットフォーム化に取り組むと、視野が広がります。つまり、同時に複数の市場、複数製品のことを考えます。さらに、インタフェースをつぶさに見るという細かな視点、ロバスト性という未来志向が加わります。まさに虫の眼、鳥の眼、魚の眼です。

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