日経エレクトロニクス本誌での特集取材の一環として、2011年3月14~19日に中国(上海と無錫)と韓国(ソウル)へ出張する機会があった(取材内容は、日経エレクトロニクス2011年4月18日号の特集記事に掲載予定)。筆者自身、中国を訪れるのは今回が3度目だ。とはいっても、メーカー勤務時代に深センに2回出張した経験があるだけであり、上海と無錫は初めてである。

 海外出張時に悩みの種となるのが、滞在先のホテルから取材場所への移動。米国取材では、鉄道網が発達していない都市も多いため、タクシー移動を余儀なくされることもしばしばだ。今回、上海市内の移動にはタクシーを極力利用せず、地下鉄を利用することにした。既に11路線が開通しているということもあり、市内であればほとんどの場所に地下鉄で移動できるためだ。市内の端から端まで乗っても10元(1元=14.5円で145円)程度で移動できる。タクシーでは中国語しか話せないドライバーがほとんどであるため、日本人にとっては地下鉄を利用する方が移動時のストレスが少ないといえる。

図1 上海地下鉄の構内に設置されたデジタル・サイネージ。
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中国でもデジタル・サイネージ

 とこれ以上、“旅行体験記”を書いても仕方がないので本題に戻す。“ディスプレイ記者”として地下鉄での移動時に目に止まった2種類のディスプレイがあった。

 一つが、デジタル・サイネージ(電子看板)である。地下鉄車内には、17~20型前後の液晶ディスプレイが設置されており、ニュースや広告などが映し出されている。関東の読者には、ジェイアール東日本企画がJR山手線なので実施している「トレインチャンネル」とほぼ同じといえば想像できるだろう。こうした液晶ディスプレイは地下鉄の駅の構内に多く、「上海火車」や「人民広場」などの多くの駅では、40~50型品が設置されている(1)。交通網におけるデジタル・サイネージは、日本と比べても遜色ないといえそうだ。

図2 FPD China 2011のSamsungブースで展示されていたデジタル・サイネージ用液晶ディスプレイ。
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 実際、パネル・メーカー各社は、デジタル・サイネージ向け液晶パネルの拡販に力を入れている。上海出張と同時期に開催されていた展示会「FPD China 2010」では、韓国Samsung Electronics社や韓国LG Display社が、デジタル・サイネージ向けの液晶パネルを数多く出展していた(図2)。大型液晶パネルの表示方式として、Samsung社はVA(vertical alignment)モード、LG Display社はIPS(in-plane switching)モードを推進している。国内外での展示会では、表示方式について自社の強みと他社の弱みを強調していることが多い。今回の展示会でも、LG Display社のブースでIPSモードとVAモードのパネルを用いたデジタル・サイネージの比較展示が見られた(図3)。

図3 FPD China 2011のLG Displayブースで展示。右がIPSモード、左がVAモード。
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スマホはやはり「iPhone」が人気

 地下鉄での移動時に、ディスプレイ関連で目に止まったのがスマートフォン・ユーザーの多さだ。地下鉄に乗ると、中国人がスマートフォンとにらめっこしている姿を度々見かけた。中国でも人気があるのは、やはり米Apple社の「iPhone 4」。販売店に尋ねても、「人気あるよ」と気さくに答えてくれた。台湾HTC社製のスマートフォンを使用している中国人も多い。中国人にとって、「高級機=スマートフォン」という認識になりつつあることを実感させられた。

図4 上海市内にあるNokia社の直営店。
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 意外だったのが、フィンランドNokia社製の「Nokia N95」を使用している中国人が多かったこと。スマートフォンで出遅れた感のある同社だが、中国の「フィーチャーフォン」(従来型の携帯電話機)市場で一時代を築いていたこともあり、「人気は根強い」(ある国内部品メーカーの上海駐在員)という。上海市内でデパートなどが立ち並ぶ人民広場にあるNokia社の直営店では、「Nokia E7」(ソフトウエア基盤に「Symbian^3」を搭載したフラグシップ・モデル)をはじめとする各種のスマートフォンが販売されており、店内は多くの人で賑わっていた(図4)。同社は、Symbian搭載のスマートフォンの開発から撤退し、米Microsoft社の「Windows Phone 7」に開発を注力すると宣言している。今後、中国市場にどういったスマートフォンを展開していくのか、注目したいところだ。

 スマートフォンをはじめとする携帯電話機の普及には、別の意味で気になる点もある。上海市内の地下鉄では、乗車中でも携帯電話機による通信ができるため、車内で座席に座ったまま通話している中国人も多い。騒音がある車内では通話者の声が大きくなるため、不快に感じることもしばしばあった。上海万博を機にマナーが改善したといわれる中国であるが、車内でのマナーの改善は引き続きお願いしたいと感じた。