IV. 社会システムの再設計

 今回の大震災と津波は、我が国社会が抱えていた幾つかの構造的課題を白日の下に晒す結果となったといえる。課題の第一は、いつまでもなく、災害に対する脆弱性である。これは、原子炉の安全性、クライシスマネジメント、医療体制、インフラ、通信機能等、多方面に亘っている。第二は、エネルギーである。特に電力需給に関しての柔軟性や緊急対応能力が乏しいことが明らかとなった。第三は、社会の高齢化である。被災した地域の多くで、高齢化率が20%代後半から30%に達しており、避難の後の復興時には、30%、すなわち、2030年の日本の平均的姿を超える地域が多く出てくるものと考えられる。

 被災地の復興にあたっては、単に被災前の姿に復するのではなく、こうした課題解決を織り込んだ新しい社会の創造と街づくりを行う必要がある。そのためには、以下のような目標に関して、行政、防災、交通、建築、情報通信、エネルギー供給と利用、医療・在宅ケア、高齢者支援、人の絆等、多くの分野に関連する社会システムの再設計(イノベーション)が必要である。

 また、こうして生まれた次世代社会システムを、被災地に続いて、全国各地で取り入れ、我が国を一段先進した社会へと組みかえるとともに、同じ課題を抱える世界の国々に発信し、いち早く共有することで、世界に貢献していくことも重要である。このような観点から、災害について多くの経験を有し、また、ITを利用した新たな社会づくりで先進している米国との間で、次世代社会システムに関する幅広い協力の枠組みを立ち上げるべきである。

(1)大規模なショックに対しても安心安全な社会
  (耐震・耐津波街づくり、クライシスマネジメント、サイバーセキュリティ、医療ID、取引ネットワークの頑健化、アドホックネットワークなど)

(2)エネルギーに関してサステナブルで頑健な社会
(太陽光、風力等の自然エネルギーの大規模な導入、バイオマス、電気製品の大量買い替えや生活パターンの変更を含めた省エネルギー、直流給電など)

(3)高齢化率30%超で快適に暮らせる社会
  (オンデマンド交通、スマートビークル、e-Health、在宅ケア、安心の成年後見体制、地域循環型住み替え、健康や転倒予防教育など)

提言者有志:
松見芳男(日本工学アカデミー会員、伊藤忠商事理事・先端技術戦略研究所長)
田中芳夫(日本工学アカデミー会員、産業技術総合研究所参与)
有本建男(日本工学アカデミー会員、科学技術振興機構社会技術研究開発センター長)
坂田一郎(工学博士、日本工学アカデミー会員、東京大学政策ビジョン研究センター兼工学系研究科教授)
唐津治夢(工学博士、SRIインターナショナル日本支社代表)
柳沼裕忠(パナソニックR&D部門 コーポレートR&D戦略室、技術政策グループ 政策推進チーム参事)
亀井信一(理学博士、日本工学アカデミー会員、三菱総合研究所、科学・安全政策研究本部副本部長)
江上美芽(日本工学アカデミー会員、東京女子医科大学先端生命医学科学研究所客員教授、チーフメデイカルイノベーションオフィサー)
村井好博(金沢工業大学常任理事、産学連携機構事務局長)