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コラム

信頼にも加減がある

2011/03/25 12:00
佐々木次郎
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「ったく、なにやってんのよォ! 冗談じゃないわ!! これじゃあ、お客様の信頼を失ってしまうじゃない!!!」。お局が何やら電話で怒っていますヨ。どうやら、相手はシステム管理会社の担当者みたいです。

 「次郎さん、本当に冗談じゃないわよ。こちらの状況が全然分かってないんだから。もう、契約を切ってしまおうかしら」。こんな過激なお局も久しぶりですワナ。

 そこに、アスパラが血相を変えて飛び込んできました。「せ、先輩、大変です! 『メールが使えないとはどういうことだ。責任者は誰なんだァ! 』って、社長が叫んでいます。管理者は先輩ですよね。何とかしてくださいよ」。

 「分かってる、メールが使えないくらい、分かってるわよ。それだけじゃなくて、ホームページだって受発注サーバだって、全〜部、止まってるんだから」。さすがのお局も、自分ではどうしようもありません。なにせ、委託したシステム管理会社側の大チョンボ、責任感が強いだけに、歯がゆいのでしょうナァ。

 しかし、今回の事件、お願いしたのは我が社ですから、こちらの管理体制にも問題があるてェ事ですヨ。

 当たりまえですが、アタシ達の会社にもホームページやシステムがありますヤネ。実はお局、そのシステム全体の管理者なんですナ。いえいえ、お局がその専任ということではありませんが、他に分かるシトがいないものですから、前任者からシステム管理の仕事を丸ごと引き継いでやっている、そういう訳ですヨ。

 委託先の企業も、そのまま引き継いただけですから、元々、お局がその企業を選んだという訳じゃありません。しかし、前任者からの情報では、ちゃんとやってくれる会社、そのように聞いていた訳ですよ。だから、ウチのシステムを、そのシステム管理会社に、ほぼ全面的に運用を任せ、こちらは全面的に信頼していた、という状況なんですナ。

 それだけ信頼していたのに、今回のトラブル、その管理会社の不適切な対応というのか手抜きというのか、どうも、全面的にその会社の責任なんですヨ。しかも、ここに来るまで、小さなトラブルが頻発していたそうで、その予兆があったらしいのですヨ。

 まるで、火山が爆発する前に微小地震があって、とうとう今朝になって大爆発。ウチの会社のシステムが、殆ど全て使えなくなるという最悪の事態。お局、すっかり裏切られたという気持ちと、予兆に気付かなかったわが身を責める、そんな複雑な状況なんですヨ。

 しかし、そんな私情は振り切って、先ずは復旧させなくてはいけません。お局、正念場ですゾ。

 今度は、欧陽春君がお局を呼びに来ました。「先輩、社長が呼んでます。事の顛末を説明するようにって。大丈夫ですか、僕も一緒に行きましょうか?」。

 「ありがとう、優しいのネ。大丈夫、一人で行くわヨ。アタシが責任者なんだから」。う〜ん、お局、見直しましたヨ。それにしても強いシトですナァ。

 「…ということは、そのナントカシステムという会社に、ウチのシステムを全面的に委託し、その担当者の林君という人が、事実上、一人で担当していたということなのか。キミは、我が社のシステムを、よその会社の、しかも一人に、すべてを頼んでいたんだね? う〜ん」。社長も、ウチのシステムを全面的に外部に委託し、しかも事実上一人に委託していたことを知らなかったようですヨ。

 「その通りです。結論を言えば、うちの会社のホームページやシステムは、委託先の社員である林君に委託し、しかも彼にしか扱えないというのが、残念ながら今の現状です。トラブルがあっても、内容を変えようにも、その林君に頼むしかなかったのです。今回の障害については、先週、依頼した設定変更の件で、林君がミスしたことから分かったのですが、あらためて、その会社では林君以外に分かる人がいないことも分かったのです」。お局、正直にありのままを説明しています。

 更に、「申し訳ありません、それまで知らなかったのです。これまで、漠然とですが、こちらでシステムを管理できるようにと考え、予算の計上をお願いしたのですが、これまで何も起こらなかったものですから、結果として、予算も後回しにされてきたのです」。

 続けて、「でも、言い訳するつもりはありません。管理責任者の私の怠慢です。責任を感じているのは勿論ですし、処罰についてもお受けします」。ええっ、お局、処罰なんざァある訳は無いだろうし、もしも責任を問われるのなら、アタシが上司、全部アタシの責任ですヨ。

 いやあ、今度の事件は実に色々なことを学ぶきっかけになりました。よく“喉元過ぎれば熱さ忘れる” って諺(ことわざ)、ありますヤネ。何か起こってしまったことでも、時間が経って過ぎ去ってしまえば、その苦しさや痛みを忘れてしまうってことですワナ。今回の話は、その逆てェ訳じゃありませんが、何も不具合が起こらないと、あらかじめ、その対策を打とうとしないという、案外、どこの会社にもありがちな話ですワナ。

 お局は、前任者から引き継いだ時に、そのリスクに気付いてはいたんでしょうが、結果として、対策をしなかった訳ですヨ。おっと、勿論アタシの責任ですヨ、本当に。

 よく考えると、この問題は難しいと言えば難しいですナ。なにも起こらないのに「システムが危険だゾォ!」と言えば、お局がオオカミ少年ならぬオオカミ○○さんになっちまいますワナ。それじゃあ、お局だって報われませんヨ。えっ、ちょっと冗談が過ぎましたかナ。

 やれやれ、午後になって、やっとシステムは復旧しましたヨ。しかし、今度の事件、お局としては、結果としては残念でしたが、問題点を把握していたという意味では、やるべきことをやっていた訳ですヨ。悔いは残りますが、結果として問題が顕在化して、会社としても改善に取り組む、まあ、結果オーライとしましょうヤ。

 …というわけで、慰労会も兼ねて赤提灯、しかありませんゾ。

 「でもね、あの林君だっていいところもあるのよ。技術には精通してるし、ハキハキと受け答えもいいのよ。今回は叱ってしまったけれど、彼は彼なりに一生懸命だったのは事実。言い過ぎたかなあ」。お局、優しいのですヨ。

 「それは分かるが、じゃあ、何がいけなかったのだろう? ここはちゃんと総括しないといけねえぜェ」。確かに部長の言う通り。こんなことを繰り返しちゃいけませんヤネ。

 「そうね。敢えて言えば、林君のいけないところは、『障害は起こるもの』って、簡単に済ませるところね。彼にとって、システムに障害はつきもの、それが常識なのよ。だから、彼、或は、彼の会社にとって、障害が起こったときはなおすだけ、それだけなのよ。だけど、実際にそれを利用している私たちにとっては大問題。それじゃ済まされない訳でしょ。その認識が無いのが問題だったのよ。相手先が大迷惑するのが分かっていたら、自分一人だけで担当するんじゃなくて、チームで対応するようになるはずよ」。

 お局、一件落着した後は、ちゃんとクールに分析しますヨ。

 「でも結局、悪いのは私たちの会社だと思わないとダメ。任せっぱなしにしているのを知りつつ、結果としては放置してしまったのよ。本当は、やるべきことは分かっていたのに、それをしなかった。100%信頼すること自体、そこにリスクがあることを、考えなかったのよ。林君だけで保守しないように申し入れもしなきゃいけなかったし、林君以外でも保守できるように、システムを作り変えることだってできた。でも、結果としてはしなかったのよネ」。

 どうやら、話が見えてきましたヨ。お局は、やるべきことは分かっていたんですナ。でも、いろんな事情でそれができなかった。だから、今回の事件が起こった。そういえば、アタシも若い時に同じような経験をしましたヨ。いっつあんも同じような経験をしましたヨ。ほらほら、話したくてしようがありませんヤネ。

 「そういやあ、俺も同じような経験をした事があるぜェ。開発部に配属された時サ。先輩から引き継いだ新商品の設計をしてたんだが、その中に外注先が設計した部品があったんだ。で、その商品の故障、つまりクレームてェやつヨ。それが頻発した時があったんだが、原因を突き詰めると、その部品と商品の相性が合わないことが原因だったんだ。部品を外注に設計させたまではよかったんだが、その特性を理解しないまま使い始めたってところに問題があった訳ヨ。つまり、100%信頼したこと自体がダメなのサ。あの時、念には念を入れて、信頼する加減を図ればよかったのに、今でも悔やまれるぜェ」。

 「そうなの、部長にもそんなことがあったのネ。お疲れ様」。お局、少しは気が楽になりましたかナ。

 「参ったわよォ、今日は本当にイライラしたけど、これで問題点も分かったし、心置きなく改善に取り組める。今日みたいなことが無いようにしなくちゃね」。

 そこにアスパラ、「ところで先輩、これからは、外部にしたって内部にしたって、100%は信頼しないってことですよね。なんか、あえて信頼しないようにするのは、淋しい気もしますが…」。

 「ははは、アスパラ、アンタ何も分かっていないのネ。今回のトラブルの根源は、信頼性に対する、手放しの信頼が問題だったのよ。いい? 信頼にも加減があるということ、つまり、信頼するときにも、ほどよい加減があるということよ」。

 聞いたアスパラ、よせばいいのに変なことを聞きますよ。「では、僕の信頼性ってどうですか? 先輩、僕は何パーセントくらい、信頼できるのでしょうか」って、バカなことを聞きますよ。

 「ふふふ、アスパラ、アンタは100%! 信頼しているわよ。何も心配していないわよォ! 何せ、最初っから、イイ加減なんだからネ!」。

 「先輩、そ、それって、意味が違いますよォ!」。

 やれやれ、お後がよろしいようで…。

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