加藤 民間の競争という効率性を体験した立場から見ると,国の研究機関の考え方も変えていく必要があると思いますか。
吉田 それはあると思います。まずは,既に世の中にあるツールを知ることが大切でしょう。予算の限界があるので,すべてを調べたり体験したりすることは難しいかもしれませんが,知らなければそのツールを超える研究成果は出せない。そういう時代だと思います。
実は,私は「オープンCAE学会」(CAE=computer aided engineering)という学会の会長もやっています。世の中の商用CAEソフトウエアには,1本の価格が数百万円のものがたくさんあります。普通は1台では使わないので,並列処理で利用すると何千万円,何億円の年間コストが掛かる。
それと同じ能力のソフトウエアをオープンソースで開発しようという動きが活発になっています。今のところ,商用ソフトウエアの使い勝手にはかないませんが,Linux OSと同じような大きな流れになりそうです。商用ソフトウエアと独自開発技術に加えて,オープンソースの活用という選択肢が出てきた。それらをよく見極めて,賢く最良の道を選ぶ必要があります。
爆発研究所では,オープンソースにも重きを置いて,すべての選択肢に足を突っ込もうというスタンスでビジネスを進めています。
自然現象の再現は,訓練や教育向けにも
加藤 今の目標は何ですか。
吉田 もちろん,企業を立ち上げたからには,それを成功させるというのは最大のミッションです。
今後は,3次元CGによる動画コンテンツを作りたいと思っています。これは起業したときからの目標です。空想でCGを作るのではなく,物理シミュレーションを使った動画コンテンツを制作したい。自然はこんなにも面白いというのが分かる動画です。
例えば,映画で隕石が振ってくるシーンがあると,ほとんどはすごくみすぼらしい。米国アリゾナ州に落ちた隕石は40~50mほどの大きさだったと見られていますが,火の玉になった隕石の輻射熱で原住民が数種族滅んだそうです。それだけ自然の力はすごい。
ハリウッドの映画を見ていると,これは絶対に起きないという爆発シーンも散見されます。そうした空想で制作するCGでは絶対に実現できない水準の動画コンテンツを安価に制作するには,物理現象や物理モデルの専門知識が不可欠です。
単に面白いだけのコンテンツではなく,訓練や教育向けの市場も広がる可能性がある。例えば,海上でタンカーが爆発した時に,どうなるのかを体験できれば対策を立てやすくなるでしょう。そうした骨太のコンテンツを作ろうと思っています。
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