吉田 仕事でも,ミニコンを使っていました。今から考えればとても処理能力が低いものでしたけれど。アセンブラを書くのが得意だったので,それでいろいろな数値計算などをやっていました。

 米国などは,国土が広いですから実際に爆発を起こして実験できる。例えば,砂漠の真ん中で40tの火薬の隣に,もう一つ40tの火薬を置いて爆発させたらどうなるかといった実験を行えるわけです。

 でも,日本ではそうは行きません。自衛隊の演習場でも100~200kgの爆薬しか使えませんから。過去に,東京工業試験場が北海道で行った最大の爆発実験でも,火薬量は3tです。結局は,理論と現象をきちんと理解して,数値計算で調べる必要がある。

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加藤 自作コンピュータという高校時代からの趣味が,ある時に爆発研究と結び付いたわけですね。

吉田 そうです。1997年の年末に「Beowulf」(ベオウルフ)というオープンソース・ソフトウエアによる並列計算のプロジェクトを知ったことも転機になりました。

 爆発のシミュレーションは衝撃波の流体計算をするので,かなりの演算能力が必要です。爆発によってできた高圧の気体の衝撃波がどう伝播するかを調べるためです。

研究だからこそ,究めるべきことがある

吉田氏 それを実現するには,特殊な計算機が必要だと思い込んでいました。並列計算をオープンソースのソフトウエア・ライブラリで実現できると知って,早速その開発に着手しました。

 1998年秋に16台のPentium 2搭載パソコンを購入して並列計算機を作りました。それ以来,毎年1台は並列処理計算機を作りました。ある政府機関の予算で作った並列処理計算機は,2003年11月のスーパーコンピュータのランキングで351位になりました。私とポスドクの研究者と二人で組み上げたのですが,当時1位だった「地球シミュレータ」に比べて,1GFROPS当たりのコストが1/10で実現できた。うれしかったですね。

加藤 独立してビジネスを始めて,新しい発見はありましたか。

吉田 面白いのは,産総研では難しかった数値計算ができるようになったことです。産総研は研究機関なので,市販の数値計算ソフトウエアを買ってきて,それを利用するという発想はあまりありません。

 それは当たり前です。市販のソフトウエアを使う研究は,産総研でやるべきことではないからです。自分たちで数値計算の手法を開発して,市販のソフトウエアよりも優れたものを開発するのが研究ですよね。仮に汎用性で負けていたとしても,詳細な計算でははるかに性能が高いものを実現するということが勝負所だと思うのです。

加藤 その話は,政府の事業仕分けチームに聞かせたいですね。

吉田 ただ,現在の会社のビジネスでは,選択肢を常に考える費用がある。市販のソフトウエアを使えば,今すぐ安価なコストで成果を出せるのであれば,購入した方がいいでしょう。

 事業では,独自技術の開発と市販品の購入のどちらかを選んで,とにかく早く顧客が求める成果に近いものを出すことが必要です。このスタンスで考えると,産総研では選ばなかっただろう手法を選択できます。逆に,それによって現象面で新しい発見があったりする面白さもあるのです。