「そんなコンピュータを作って,何に使っていたんですか」

 世界最高速の必要性が,政府による事業仕分けで真剣に議論の対象になってしまう昨今である。低コストで実現したとはいえ,国の予算を使って並列処理コンピュータを開発できるとは,なかなか信じにくかった。

 ただ,吉田氏の真の専門分野である爆発研究は,専門性だけでなく,機密性や政治性も持ち合わせた,複雑な部分もあるようだ。

 吉田氏の専門は,大規模な爆発につながりやすい固体や液体の爆薬による爆発だ。一度事故が起きれば,より甚大な被害になる可能性が高い分野を担当してきた。吉田氏に言わせれば,我々が日常的に考えるガス漏れによる爆発のような気体による爆発は「通常,大したことはない」そうである。

 爆発物の管理基準は経済産業省の管轄下で定められている。例えば,学校や病院など不特定多数の人が公共的に集まる場所を指す「第一種保安物件」の周辺では,1kgの爆発物を管理する場所を16m以上離さなければならないそうである。もちろん,16mは平面とは限らない,立体的に法律の基準を具体的事例で解釈する必要がある。

 吉田氏は,国家としての安全性の基準を,並列計算機を駆使した徹底的な数値分析などによってつくり上げるという極めて責任の重い仕事をしてきた。

空想ではない,本物のCGを

 爆発は人の生命に関わる危険性と常に隣り合わせである。それだけに,産総研での長い研究生活では緊張度の高い仕事も多かった。もちろん,安全保障上,語れないことも少なくないようだ。ある火薬庫の移転について安全分析をしながら新しい基準を作った際には,数カ月間も休日がなかったそうである。

 吉田氏の研究では,常に爆発とコンピュータという二つが結び付いている。「最初は,独立しても爆発だけで食べていけると思わなかった」とのことだ。会社の命名でも悩んだ。「爆発」という名前をストレートに出すか,コンピュータを重視して「何とかソリューション」のような社名にするか。最後は「エイ! ヤッ!」と今の社名に決めたそうである。

 やはり,爆発が好きなのだろうと思わざるを得ない。

 吉田氏のビジネスの夢は,意外な方向にも広がっている。3次元コンピュータ・グラフィックス(CG)による自然現象のアニメ化である。「空想ではなく,物理シミュレーションによる本格CGで自然はこんなにも美しく,科学は面白いということが分かる映像を作りたい」と同氏は話す。「今年はWebブラウザー上で3Dコンテンツを表示できる『Web GL』が本格化します。それを活用したい」と目の輝きが増している。

 吉田氏は,「長い間努力して,我慢して,自分の長所を伸ばして,それから起業するという道がある」と50歳代での起業を説明した。だが,話を聞いていると,どうも「我慢して」という部分を素直に受け入れることには抵抗がある。

 学生時代を含めれば30年以上,爆発とコンピュータの「自作」を手掛け続けてきた。確かに研究では,もちろん大きな努力とチャレンジを必要としたことと思う。だが,それはやはり好きだから続けられたのではないか。しかも,好きだった二つの分野をうまく結び付けて事業に昇華した。なかなかできることではない。

 いくばくかの幸運はあるのかもしれないが,好きなことを信念を持って続けてきた結果だろう。嫌なことがあっても楽しさが上回り,だからこそ厳しさを受け入れて,仕事を続けてきたようにお見受けする。

 爆発に取り付かれたマイコン少年は,輝きながら研究を続け,少年時代からの「楽しみの場」(失礼),いや「チャレンジの場」をビジネスに変えて走り続けている。50歳代での挑戦を見るにつけ,いつまでも尊敬する大先輩と思うのである。

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